リーダー・ウォーク
ご紹介

「新しい店舗でも頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。向こうの店長さんから吉野さんは真面目で
犬の扱いも良いって聞いてるから、期待してます」
「そ、そんな……頑張ります」

先輩と店長に見送られ、新しい店舗に移動のご挨拶。
前はドラッグストアだったとかでなんとなくその雰囲気を残す店舗。
でも改装されているので綺麗で広さも前の店とはまた違う。
トリミングルームも広く取られていて機材も新しい。

ここで自分と助っ人さんと2人でトリミングを頑張ることになる。

「今日は開店前の準備手伝ってもらって昼には終わってもらっていいから」
「はい」

やっぱり目の前にするとすごく緊張して心臓がドキドキと痛む。
さっきまでは期待もあったのに今ではすっかり不安が勝っている。
でも決めたからには後戻りはしない、できない。
明日には母親が田舎から出てくるし。考えている暇など無いほど忙しい。


「やあ。今のお店が新店舗?」
「あれ。上総さん?」

本日の仕事を終えちょっと憂鬱な顔でお店を出て駅へ向かって歩きだしたら
待っていたのか?偶然にしてはタイミングが良すぎる上総。

「何だか調子が悪そうだけど、大丈夫?よかったら乗って行きませんか」
「……、は、はい」

遠慮させて頂きます、とは言えない空気を出されては乗るしか無い。
彼にエスコートされて運転手付きの高級車に乗せて頂く。

「崇央から話を聞いてね。少し見てみたいなぁと思って」
「崇央さんが?」
「彼は最近色々と話をしてくれるようになったんですよ。
自分が企画しているプロジェクトの事も含めて、きちんと相談するようになった」
「そうなんですね、崇央さんちゃんとお話してるんだ」

てっきり自分とのこともプロジェクトのことも兄たちには話していない
と思っていたから。びっくり。

「少し前の彼なら僕達にろくに相談せず強引に通してしまっただろう。
それでも彼の手腕なら会社は利益を得るだろうが、そんなやり方では反発も生む。
だから今の彼は自分で意識して無いのかもしれないが良い成長をしているね」
「……」
「あ。ごめんね。要するにつれない弟が話しかけてくれて兄としては
とても嬉しいということですよ」
「なるほど」

稟としても兄弟仲がギスギスしているよりは少しでも会話がある方がいい。
笑顔で会話しあってる松宮兄弟なんて想像もできないけど。

「このまま仕事への熱意を持ち続けてくれると嬉しいんですけどね」
「そうですね。何時何処で冷めちゃうか読めないのが崇央さんですし」
「そうそう、それでね。一度確認してみようと思って聞いたんだ」
「何をです?」
「もし稟ちゃんに飽きても僕が引き受けるから大丈夫だよって」
「は?」

何って?今さらっと何って言った?

「彼は凄い剣幕で怒ってたから、貴方とチワ丸君は大丈夫だよ」
「……は、はぁ」

私の居ない所でなんて会話してますか?

「死ね糞ジジイと言われてしまった。あれは流石にちょっとへこんだなぁ」
「ちょっとでいいんですか…」

ツッコミどころ満載だけど、堪えて。マンション前まで送ってもらう。

「これからも崇央とチワ丸を頼みます。あとこれ、明日お母様が来るそうですね。
良かったら使ってください。それじゃ、また」
「え?あ、あの、それも崇央さんが?……え?これは」

車を降りる際に品の良い封筒を渡されて質問する間もなく車は去る。
母親が来ることも兄に話して居たのだろうか。ちょっと恥ずかしい。
まさかこれを渡すために待っていてくれたとか?


「なにこれ」
「上総さんから頂いたんですけど、高価すぎるのでお返しして欲しくて」
「……はぁー?」
「そ、そこで不機嫌にならないでください」

封筒の中身はホテルの中にあるレストランのお食事券。
この金額なら一番高いフルコースを頼んでもお釣りがきそう。
とてもじゃないが使えないので夕方に松宮に連絡し来てもらう。

「いいじゃん使えば。金に変えてもいいし、あの人何も言わないから」
「でも」
「用事があるって言うから来たのに。なんだよ」
「……」
「……今日、どうだった店。話ししたいからちょうどいいけどさ」

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