リーダー・ウォーク

ひどい目にあわされそうになって思わず声を荒げてしまったけれど、
相手はその辺無視してご機嫌にお風呂中。一緒に入ろうなんて言われたが
もちろんそんなものは無視をしてチワ丸と遊ぶ。

「チワ丸ちゃんはイイコだね、これからもイイコでいてね」

抱っこして頭を撫でながら念入りに言っておく。
ペットは何処かしら飼い主に似てくるというけれど。
あの男に似たらとんでもない事になりそう。

「チワ丸睨んでどうした?粗相でもした?」

未来を想像し見つめていたら風呂からあがってきた松宮。
チワ丸は嬉しそうに稟の手から離れて彼の足元でじゃれる。
それを彼は嬉しそうに見て抱っこして頬をすりすり。

「チワ丸ちゃん、たまにはこの部屋に泊めてください」
「え?なんでチワ丸だけ」

このまま染まりきって松宮2号になったらと思うと。

「そういうのもチワ丸ちゃんの気分転換にいいかなって」

少し引き離したくらいじゃ無駄なことかもしれないけど、
ちょっぴり不安ですから。

「そうか。じゃあ、また連れてくる」
「はい」
「でさ。何で布団二組敷いてる訳?それもかなり離れてるし」
「疲れてるだろうと思って。私寝相悪いですし」
「そんな悪くないけど?一組でいいだろ布団なんて」

本来なら彼とチワ丸はリビングで自分は部屋で寝たかったのを
絶対ゴネるだろうと思ってリビングに布団を2組敷いた。
それもできるだけ引き離して。
さらっと流してくれるかと思ったがやはりそんな訳にもいかず。

「こ、こら!チワ丸ちゃん!引っ張っちゃ駄目だって」

来客用に買っておいた薄っぺらい布団やまくらをチワ丸がせっせと
口に咥えて引っ張って飼い主の元へ持っていく。
指示されてないのにそうするのが当然かのように。

「そうだよなチワ丸。これはここだよな?お前もそう思うだろ」

松宮は満足そうな顔でそんなチワ丸の頭を撫でてあげて、
彼が持ってきた布団やまくらを自分の隣にセット。
結局布団をくっつけて眠る事に。この連携プレイに
まだ2人1つの布団に寝るよりはましかと稟も折れた。

「やっぱり飼い主に似るんだなぁ」
「何が?」
「つかぬことをお聞きしますけど、チワ丸ちゃんは去勢はしてます?」
「去勢?なんだそれ」
「……ですよね」

飼い主に似てくれたら誰かれ構わずじゃないから大丈夫だろうか。
私がしっかりしなきゃ。稟は改めて誓った。

「あんたの母親なんか言ってた?」
「都会の人だからお洒落なんでしょうねって」
「え?そう、俺普通だけど。そうか。じゃあ服新調しようかな」
「十分お洒落ですからそれ以上何もしなくていいですよ。緊張します?」
「まあ、少しくらいはな」
「もし私が崇央さんのご両親に挨拶ってなったらもっと緊張するんだろうな」
「両方死んでるから安心だろ。上の連中もあんたのこと知ってるしな」
「そういう言い方はどうかと」
「家はいいんだ。変な気使わなくていいから」

ちょっと不機嫌ぎみにいう松宮。彼は家の話題を極端に嫌う。
もとより親に紹介されるほどの存在でもないのかもしれないし。
稟は少しだけ寂しい気がしたが、それでもこうして2人と1匹で
居られるのなら良いかと思い直す。

「……」
「でも、母親には会わせたかったな。……あんまり、記憶ないけどさ」
「松宮家のお母様に比べたらうちの母親なんて、がっかりしないでくださいね」
「見てから考える。なあ、チワ丸」

松宮の言葉に答えるようにワン!と返事するチワ丸。

「うう、チワ丸ちゃんが松宮色に染まっていく」
「あんたも染まるんだよ。これからじっくり、さ」
「……」

耳元で囁かれる悪魔のようなセリフ。でも稟は否定は出来なかった。
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