リーダー・ウォーク

「稟!ああ、良かった。お母さんもう駅から出られないかと」
「大げさだよ。でも長旅お疲れ様でした。どっか喫茶店でも行く?」

翌日、待ち合わせた駅で母親と合流。父は結局来なかった。
犬が心配とか、都会が面倒とかなんとか言っていたらしいけれど。
実際は稟の彼氏と聞いて気まずくなったんだろうと母は言っていた。

「ううん、お母さんまず貴方の部屋に行ってゆっくりしたいわ」
「わかった。じゃあ、行こう」

久しぶりに会った母は少し老けた気がする。アタリマエのことだけど。
荷物を持ってタクシーを拾ってチワ丸の待っているマンションへ入る。

「都会は家賃が高いって聞いてるけど、こんな広い部屋大丈夫なの?」
「訳ありだから安いの」
「訳あり?大丈夫?何か物騒ね…」

母親が想像したよりもはるかに綺麗で立派な部屋に驚きつつ。

「ただいまチワ丸ちゃん」
「あらま。可愛いワンコちゃんね」

リビングに入ってお出迎えしてくれたチワ丸を見てニッコリ。
朝、松宮からメールがあってチワ丸は母親を迎えるべくオシャレなお洋服と
可愛い蝶ネクタイというおすましスタイルに着替えている。

「交際してる人のワンコ。うちの店で迎えてくれたの。チワ丸ちゃん」
「まあまあ、チワ丸ちゃんっていうの可愛いお洋服着て」

初めての相手は緊張しがちなチワ丸だが母親には尻尾を振って近づき
なでてもらえると嬉しそうに大きな目をキラキラさせている。
母親も犬が好きなのでチワ丸を気に入ったらしく嬉しそう。

「チワ丸ちゃんを凄く大事にしててお母さんにも紹介したいって」
「まあまあ、優しい人なのね」
「……うん。そう」

間違ってはない。

それから1時間ほど休憩をしたら今日はここではなく別にホテルをとって
いることを説明してチワ丸もつれて一緒に部屋を出る。
そこから母が行きたがっていた場所や有名なお店でお買い物。
稟の様子を見に来るつもりでもやっぱり都会にきたら楽しみたい。

「お父さんに良いかしら」
「うん。良いよ。似合う」
「派手じゃない?お父さん何時も同じ色味ばっかりで」
「だからこそたまには違うのもいいんじゃない?」
「そう。そうよね。これにするわ」

目移りしながらも結局両手に買い物した袋を持ってホテルへ。

「え、えぐぜぐてぶ…すいーと?な、なに?どういうお部屋なの稟」
「どんなだろうね?いい部屋って言ってたけど」
「貴方が用意してくれたんじゃないの?」
「いや、崇央さんが」
「え?」

あの人が用意するくらいだから星が4つ5つの高級な場所だとは
思っていたし部屋も相応のものなんだろうとも想像がついた。
キャリーに入れたままとはいえ、チワ丸がいても何も言われない。
慣れている稟はフロントで何を言われても平然としていたけれど。
何も知らない母親は不安そうに顔を真っ青にしてオロオロしていた。

「吉野様の特別な日にシャンパンのサービスだって」
「な、なんなの?どうしたの?え?稟…貴方やっぱりなにか悪いこと」
「悪いことしてないよ地道にトリマーとして働いてます」
「でもトリマーさんのお月給なんて」
「崇央さんが、……彼氏さんがその、まあ、お金持ちなんです」
「どういう方なのかしら。そんな人がなんでうちの稟???」

適度に広く、外の景色がとても綺麗に見える部屋。
ベッドも広いしふかふかでソファも綺麗。冷えたシャンパンも。
母親が不安げにそのソファに座る。
まさかこんな所とは思ってないはずだから落ち着かないのはわかる。
稟も少し前までは松宮のすることやることについていけなかった。

「それはまあ、色々あって。夜会えると思うから」
「……稟、お母さんてっきり大江君みたいな人を想像してて」
「都会は色んな趣味の人いるから」
「大江君とはもう駄目なの?彼、たまに声かけてくれるんだけど
本当にいいこだし、付き合ってた子とはもう別れたって言うし」
「駄目っていうか。うん。駄目。今は、崇央さんが居るから」
「そう。そうよね、稟が選んだ人。どんな人かしらね」

母がそんな都会の男と娘は付き合ってないって思ってるのは自分でもわかる。
でもそれでも田舎娘が良いと相手が言う限りは、側にいる予定。

「何時もみたいに美女引っ掛けて来なきゃ良いけど」
「何て?」
「あ、お茶飲みに行く?ホテルの中のカフェあったよね」
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