リーダー・ウォーク

「は?浮気?」
「え?浮気?」

夕方、連絡を取り合って迎えに来てくれた彼氏さん。
顔を見合わせてお互いの第一声がこれ。

「それ猫フードだろ。猫トイレに猫砂」
「はい。ぜーんぶ猫です」
「猫飼うとか聞いてない」
「私じゃなくって、恭次さんが」
「なに?あいつココに来た?あえてここ?あんたに会いに?」
「待った!崇央さん顔が怖いから!落ち着いて、とりあえず荷物入れて」
「嫌だ」
「入れてくれないなら崇央さんの知らない所でコソコソしますよ?」
「……」
「だったらまだ監視下に置いておいたほうがよくないですか」
「……あと荷物どれ」

彼が次兄の名前を聞いて不愉快な顔をするのは想像できたし、
拒否もするかもしれないと思っていたので心づもりと大作は練っている。
松宮は案の定な顔をするが稟の言葉に渋々したがって荷物をのせた。

「この子はもちといいます。死にかけていたところを恭次さんが救いました」
「……」
「困って咄嗟に浮かんだのが私だったんでしょうね」
「……」
「こんなに小さいんですよ。赤ちゃんです。目もまだちゃんとあいてない」
「……大丈夫なのか。あいつ、俺よりよっぽど忙しいし夜遅いけど」
「私がつきっきりでもちちゃんの世話をするのと崇央さんがたまに様子を見るの。
どっちがいい?」
「あんたなぁ。……、……チワ丸が世話したらいいのにな」
「チワ丸ちゃんもイイコだけど、まだ子どもですしね」
「にしてもさ、もちってセンス悪くない?」
「そうですか?」

チワワのチワ丸もけっこういいセンスしてると思いますが、
怒るか拗ねるので口にはしないでおきます。
猫用品を詰め込んだ車で松宮家の豪邸へと到着。運び出しは予め
恭次が話をしていたのか、家の人が出てきてくれて一斉に運び出した。

「ほほう。これがもち」
「はい。もちちゃんです」
「チワ丸君と仲良くしてくれるといいね」
「そうですね」

稟はもちの入ったキャリーを持って家にあがると帰宅していた長兄。
キャリーを覗き込んでいらっしゃい、と微笑んだ。

「言っとくけどチワ丸を引っ掻いたりしたら許さないからな」
「まあまあ、まだこんな小さいんだから。ねえ、稟ちゃん」
「そうですよ。今はまだご飯と眠ることがお仕事です」
「赤ん坊だ。恭次はもうすぐ帰ってくるよ、たぶん彼のことだから猫用の書物を
大量に買い込んで読み漁るんだろうね、色々と相談にのってあげて欲しい」
「はい。あ、あの、上総さん。先日は母のために高価なものを」
「あ。そうそう、そのことなんだけど」
「いいから稟は俺と部屋に行くんだ。あんたと無駄話する時間はないんだ」

機嫌の悪い松宮は稟の手を引っ張って自分の部屋に引っ込む。
いつものようにチワ丸の部屋を開放すると嬉しそうに飛び込んでくるチワワ。
稟の存在にも気づいて近づいてくるが猫の匂いがするのかちょっと不思議そうな顔。

「チワ丸ちゃんの妹分だよ。仲良くしてあげてね」
「チワ丸。小さくてもおもちゃじゃないんだからな、優しくしてやれ」
「崇央さん」

不貞腐れていたけれど、彼は兄たちには冷たくても動物には優しい人。
そのせいかチワ丸との信頼関係は今や確固たるもののように見える。

「おいもち子。飼い主に似て嫌味な奴になるなよ。ほんと気持ちよさそうにねてるな」
「もち子って。……、大丈夫ですよ。恭次さんは崇央さんのお兄さんですから」
「それで何が大丈夫なんだよ。俺は恋人にすら信頼されない男だけど?」
「信じてます」
「ふーーん?へえ、そうなの?マジで?」
「信じてません?」
「そうだな、稟が上目遣いで俺を見つめながら世界一愛してるって言ったら」
「お腹すきましたね、ご飯まだかなー?」

稟と松宮の信頼関係は危うい所がある、かもしれないけれど。

「なあ。稟。キスで許すから」

着替えをしながらも未だ不満が残るようでブツブツ文句を売っている松宮。

「許すって言われても別に悪いことなんて」
「そうだな。悪いって意識がないから平気であいつと仲良く出来るんだよな」
「崇央さん」

このまま置いといたらまた爆発しそうだと立ち上がったら着替えを終えた彼が
稟の前にたって腰を抱き寄せる。乱暴でなく、優しく。

「わかってるよそういう気がないのは。あんなダサいのに彼女取られるとか無いし。
でも俺が許せないから。そういう気にさせるあんたが全部悪いんだよ」
「わがまま」
「そんな俺でも信じてくれてるんだろう?だったら愛してるって言ってキスして」
「注文が増えた」
「なんなら俺を脱がしながらでもいい」
「一緒にお風呂入るから機嫌直してください」
「絶対な」

軽く稟にキスして松宮はチワ丸の夕飯を手配する。
やっと機嫌が少しは治ったみたいで良かった、のだろうか。
キャリーの中のもちはまだまだお眠。
飼い主さんが帰ってきたらまた話が面倒な方へ行きそうだけど。

「チワ丸ちゃん。いざとなったら私を守ってね」
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