リーダー・ウォーク

「チワ丸ちゃん大興奮ですね」
「ああ。俺のが先にバテるわ」

暫くはチワ丸と遊んでいた松宮だったがテンションが上がる一方のチワ丸に
ついていくのは難しいのか疲れた顔で戻ってくる。

「休憩します?私チワ丸ちゃん見てますから」
「あんたもバテるぞ。そこのベンチに座ろう。それならチワ丸も安心するだろう」

チワ丸が遊んでいるアジリティがよく見える場所にぽつんとあるベンチ。
松宮が座ると結構狭くなるような。稟が隣に座ったらもう肩が触れそう。

「…お茶、買ってきますね」
「え?いいよ。ほら、座れって。あんたも立ちっぱなしで疲れたろ」
「普段から立ってますから」

散々偉そうにしてきてここでも図々しく場所をとって座ったら悪そうで。
稟は中々座れないでいる。いっそチワ丸と遊んでこようか。

「ほら。いいから」
「あ」

どうすべきか悩んでグズグズしていると松宮が立ち上がり、稟の手をとって
ベンチへ連れてくる。そのまま強制的に隣りに座った。

やっぱり肩が少し触れる。

けれど、相手は何も言ってこないのでいい。のだろうか。
こっちは若干恥ずかしいというか緊張してますけど。

「ラン用にチワ丸のオモチャ買わないとダメだな」
「ボールとかいいですよね。取ってこーいって」
「ああ。そうだな。それ買おう」
「確かペットグッズの特集してる雑誌があったはず」
「あんたいっつも雑誌持ち歩いてるのか?」
「この前入れたっきり片付けるの忘れてました」
「……」

呆れた顔をされた気がしたがこの場を取り繕うのにちょうどいい。
カバンからやや古い雑誌を取り出し記事を松宮に見せる。
興味津々で見つめる顔は素敵だけど、やっぱり可愛く見える。

たぶん、年上のはずなのに。

「これも可愛いですよね」
「おい。チワ丸は男前なんだぞ。可愛いじゃダメだ」
「いいじゃないですか。可愛くって男前で」
「何だよそれ。……、なあ、これって犬も風呂に入れるのか」

そう言って見せてきたページは犬と一緒に泊まれるホテル。

「ただ泊まれるだけの所もあればお風呂もある場所もありますね」
「へえ。溺れないのかな」
「一緒の湯船じゃなくって専用のお風呂って意味だと思いますけど」
「わ、わかってるよそれくらいっ。チワ丸クラスになるとしょぼいのは嫌だなって話だろ!」
「はい、そうですね。そうそう。そうですとも」
「ニヤニヤしやがって。……まあ、暫くは旅行なんて無理そうだけどな」
「お忙しいですね。引っ越したら何時でもお預かり出来ますから、言ってください」
「悪いな」
「いえいえ。デートも出来ないですもんね」
「…あ?」

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