リーダー・ウォーク

こんなにポロポロと泣くなんて何年ぶりだろう?
大人になってから泣くことなんて殆ど無かったのに。
それも人前で、道端で、冷静になったら恥ずかしくてまた泣きそう。

うつむいている稟の手を誰かが優し引いてくれて、静かな建物に入る。
何の建物かは入ってすぐにコーヒーの良い香りがして分かった。

「僕は何か食べたいと思っているんだけれど、貴方はもうたべた?」
「……いえ、まだ」
「そう。よかった。はいメニュー。僕はここのオムライスが大好きなんだ」
「……」

ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながらメニューを渡してくれる人。
あの井上さんが凄く気を使っていて、怖い人も逆らえない雰囲気で。
確か兄さんと言っていたから、この人が長男ということだろうか。

先ほどの人と違いやさしい口調と雰囲気で落ち着く素敵な人。
見た感じは若々しいものの、40代中ごろから後半くらいだろうか?
もう少し若いお兄さんをイメージしていたせいかちょっとびっくり。

年の差のある3兄弟なのかな。と関係ないのにそんなことを考える。

「ああ、ごめんね。僕は松宮上総。貴方に何時もお世話になっている崇央の兄です。
先程は恭次が失礼な事を言ってしまって申し訳ありませんでした」
「い、いえ!失礼なのは私のほうです。…その、チワ丸ちゃんの事を言われると。
でも、本当なんです。人間性は私もちょっとどうかなって思うことはあるけど、
でもチワ丸ちゃんへの接し方は嘘はないし一過性のものでもないと思ってますだから」
「うん。分かっているよ。僕も貴方と同じ考えだ」

上総はニコニコとほほ笑み落ち着いてくださいと言う。
するとなんだか催眠にでもかかったように落ち着いてきて、稟はお水をぐいっと飲む。

「……すみません」
「崇央を信じてくれてありがとう。彼はずっと海外に居てね。留学、というか。
逃亡というべきか。家によりつかなくて。半年ほど前に父が亡くなり
強制的に家に呼び戻したはいいけれど。
やはり真面目に家と向き合う気はないようで、困っていた所だったんだ」
「……」
「本来はとても有能な子なんだけどね。僕がいけないんだ。
長男としてしっかりしていないから、弟たちをまとめられなくて」
「お兄さんも大変なんですね、私は一人っ子で」
「貴方を見ていると、大事に育てられたんだろうなとは思うよ」

ははは、と笑って。ちょうど出来上がったオムライスを頂く。
確かに美味しい。滅茶苦茶美味しい。

「おいしいぃ」
「お代わりしてもいいですよ」
「えほんとに?……あ、いえ。あの。…だいじょぶです」
「デザートは何がいいかな。僕のお薦めはパンケーキだけど」
「……」
「じゃあそれを2つ」

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