リーダー・ウォーク

「あ。あのこれ!」

明らかに奢ってもらう空気で、そう何度もしてもらうのは心苦しいと
財布から何枚かお札を取り出し上総がレジへ向かう前に声をかけた。

「こんなオジサンと食事をしてくれてありがとう。とても楽しかったよ」

でも優しい笑みで遮られて結局は受け取ってもらえなかった。
オムライスとパンケーキと、あとカフェラテ。
お薦めなんだと言われるとつい頷いてしまって調子に乗ってしまう。

「あ、あの。えっと。松宮様」

お店を出るとすっかり気持ちは落ち着いて顔もそこまで赤くはない。
きちんとお礼と謝罪をしなければ、でもなんて呼ぼうか?
お客様は松宮だが、彼はそのお兄さんになるわけで?なんて呼ぶ?

「そうだな。僕は上総さんでいいよ。稟ちゃん」

あっさりと笑顔で返してくる。

「上総さん。…あの」
「貴方を待っている車は駐車場にあるから、買い物を続けて」
「……」
「それとも何か言いたいことがあるのかな。いいよ。聞こう」

中々言えないでいる稟に怒ることもなくどうぞ言って、と優しく促してくれる。
兄弟でこうも違うなんて。やはり長男は違うのだろう。

「ワンちゃんを飼うにはやっぱり家族の理解も必要なんです。
苦手なのは仕方ないですけど、もしそうでないなら。お互いにちょっとくらいは
知識として存在をきちんと知っててもらったほうが…いざって時にいいって思います」
「恭次は犬が嫌いじゃないんですよ。ただ、思い通りに動かない崇央に苛立っているだけで」
「……」
「それに崇央は意地になって自分一人で面倒を見ると言い切って何もさせてくれなくて」
「そこは説得してみます」
「稟ちゃんに怒られたら崇央もきっと言うことを聞くだろう」
「そ、そんなことはないです」
「上手く出来るのか不安だったんだけど、井上君から貴方という助っ人が居ると聞いて
安心しているんだ。どうかこれからも崇央とチワ丸君を宜しく頼みます」
「…そ、そんな。あの。出来る限り、やります」

じゃあね、と軽く挨拶をして上総は別の車に乗り込んで去って行く。
そこにはあの次男も乗っていて振り返ることはなかった。
稟は井上が待つ車に戻る。

「申し訳ありません」
「いえ。井上さんは何にも悪く無いです」
「……私は松宮家に仕える秘書なのに」
「そんな」
「貴方が恭次様に言ってくれて、胸がスカっとしてしまった…」
「……あはは」

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