リーダー・ウォーク
独占欲と執着心

稟が新しい部屋に引っ越して一週間が経過した。
今のところ幽霊が出てくることもないし、不気味な御札を見ることもなく。
周囲も静かでお隣さんも普通の人で挨拶もしてくれる快適な生活ができている。
お給料はお店からと松宮から頂けるので先月と比べると驚くほど余裕が出来た。

といっても今までと大差なく節約の日々だけど。



「ビール買ってきたんだけどさ、冷やしといて」
「無理です」

今日は祝日。珍しく稟にとっても休日であり、チワ丸を預かる日でもある。
休みでも忙しいらしい松宮が早めに部屋に来てチワ丸の入っているキャリーを
持ってくる。あとビールの入った袋も。だけど稟は受け取らずチワ丸だけ受け取った。

「何で?いいだろ別にビールくらい」
「だって冷蔵庫ないんですもん」
「相変わらずの縄文人だな…」
「無理なものは無理だから無理なんです」

小さいのでも買おうと思ったけど生物を我慢すればいいじゃない、と悪魔が囁き。
未だ購入していない。絶対馬鹿にしてくると思ったけどやっぱりされた。

「はいはい。じゃあ適当に冷蔵庫買ってきてやるから置いとけ」
「いいですよ別に。困ってないですし」
「俺が困るの。ぬるいビールとか絶対飲みたくないの」
「お仕事頑張ってから飲んだら趣があって美味しいかもしれない」
「縄文人は黙ってチワ丸の世話してろ」
「……はい」

ですよね。稟はビールの入った袋も受け取る。

「今日は夕方まで電話に出られそうにないから、もしチワ丸に何かあったら井上に
連絡して調子が悪いようなら病院へ連れってくれ、診察券渡しておくから」
「分かりました。あの。お散歩とか外へ出てもいいですか?」
「ああ。いいよ。あんたも部屋に缶詰は嫌かもしれないしな」
「はい」
「その代わり、犬と糞ガキには注意しろ」
「え?」
「チワ丸はあまり犬に慣れてねえからビビるかもしれない。糞ガキは許しもなく
勝手にベタベタとチワ丸を触るかもしれないからな。ああ、よくわからんババアもか」
「…はあ」
「チワ丸に触ろうなんざ100年早い」
「気をつけます」

他の犬や人に慣れさせる良いチャンスかと思ったけど、難しそう。
でも彼の反応を見るに彼なりにチワ丸を慣らせようと散歩をしてやったりは
しているようだ。それで子どもやオバチャンにイライラしているのを想像すると
ちょっと面白い。

「じゃ。行くわ」
「お仕事がんばってください」
「……」
「…あれ。お仕事じゃないんですか?」
「いや。仕事だけど」
「じゃあ」
「なんかもうちょっとこう、俺がやる気になる感じで言ってよ」
「はあ?」
「ほらほら」
「そんな物欲しそうな顔で見ないでください。…じゃあ、えっと。
お仕事がんばって…崇央さん」
「まあ、良いとしてやろう。チワ丸頼んだぞ」

何がどう良かったのか稟には不明だが相手が満足ならいいのだろう。
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