リーダー・ウォーク

「ごめんな。ほんとごめん。でも帰ってなくてよかったよ。稟ーっ」
「待て!」

場所も時間も考えずいきなり両手で稟を抱きしめようとするので
その手を速攻で弾き落とす。それはもう犬の躾のように的確に早く。
稟もこんな素早いことが出来るんだとびっくりするくらい。

「何で叩くんだよ」
「場所を考えてください」
「じゃあどっか空いた部屋使うか」
「もうランチの時間です。お腹すいたのでご飯食べたいです」
「飯?ああ。飯な。どっか個室予約してそこで食おうな」
「ここでいいじゃないですか。お洒落だし美味しそうだし」
「ああ、そう。2人。ついたらもう料理出るようにしといて。わかった、すぐいく」
「……はや」

松宮に促され飲みかけのアイスティを惜しみながらも残してカフェを出る。
予約した店へは歩いていける距離だそうで、こんなオフィス街でも都会なら
何でもあるんだと関心していたら到着。ほんとうに近いところにあるお店。

気軽なお昼を楽しむにはちょっと不釣り合いな割烹料理店。

「ずっとあの店で待っててくれたのか?」
「いえ。まず受付で困ってた所を上総さんに助けてもらって。そこでお話をして。
恭次さんに会社を見学させてもらって、あのお店には休憩に入りました」
「…ふーん。じゃあ。もう会社みたの?何だよアイツ勝手なことして」
「でもそうしてくれなかったら私帰ってましたよ?」
「……」
「崇央さんっていい加減なことをいう人なんだなってショック受けながら。
もう二度と行くかって思いながら」

案内された個室に入るなり次々とランチコースが机に並ぶ。
どれも見た目も綺麗で食べるのが勿体無い、けど空腹なので遠慮無く。

「あれは!違うって!取引先が土壇場で注文つけてきてそれで」
「それくらい忙しいお仕事をしてるんですね。よくわかりました」
「ごめん。あんたにメールしたかったけど、周りがパニクってそれどころじゃ」
「仕方ないです」

規模が大きいし彼もそれなりに責任のあるポストにいる。
これが専務や社長なんかになったらそれ以上に多忙になるのだろう。
たしかにこれじゃ頻繁な連絡もデートも難しいというものです。
会うのが突発的になるのも。

「素直に気持ちを言ってくれていい。俺は稟に嫌われたくない」
「崇央さん」
「自分から誘っておいて半日を無駄にさせたのは俺の落ち度だ。
しまいにはあんな意味わからんアホヅラにちょっかい出されて」
「アホ面…」

あ、あのさっきのテンション高い社員さんか。

「正直に言ってどうだ」
「え。うーん。最初は怒ったけど。事情があるし。それに、見学楽しかったからもう」
「昼からもう一回な。もう一回ちゃんと紹介するからな」
「え?も、もういいです。二度も見ても」
「あいつと一緒なんて息苦しかったろ?ろくに会話もできてないだろうし俺なら」
「そんな事ないですよ?恭次さん淡々としてるけどちゃんと教えてくれたし」

こっちの質問も答えてくれた。そんな嫌な顔もしてなかった。と思う。
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