継恋
時と言うのは、いつも残酷で全ての人に平等に流れる。
そして、その流れは、急に激しさを増し私を呑み込み、溺れさせる。
予期せぬ、千尋の質問に応える術を持たない私の沈黙が続いた。
千尋は、そんな私の様子を見かねると立ち上がり、窓にかけられたカーテンを開ける。
ビルの灯りが部屋に差し込む。
「お父様、貴方が何を私に隠しているのかはもう良いです。貴方は、いつも私の事を第一に思い行動してくれた事を知っていますし理解してますから。今回の留学にもきっと意味があるのでしょ?」
「あぁっ。いつも勝手な判断で振り回す私を許して欲しい。」
多分、彼女は、この時間を待っていたんだろう。
こんな風に真剣に自分の人生について、仮初めとは言え、父親と向き合う事をいつも求めていたのだろう。
仕事に追われる、いや現実から逃げていた私を気遣い、今まで伏せていたのだろう。
「勘違いしないで下さい。別にお父様を責めてる訳ではないんです。ただ怖くて。」
「怖い?」
「はいっ。どうやって説明すれば解りませんけれども、何だか妙な胸騒ぎに襲われるのです。もう二度とお父様に会えない様な気がして。」
千尋の大きな瞳から、涙が零れ落ちた。
私は、彼女に近寄りその細い身体を抱き締めた。
「大丈夫だよ。すまないね。不安な思いばかりさせて。」
千尋は、胸に小さな顔をうずめ強く私の背中を抱き締めた。
どれくらいの時間が経ったのだろう、千尋が泣き止んだ事を確認すると、彼女の身体を優しく離した。
「突然すいません。」
「気に病むことはないよ。謝るのは、私の方だ。ただね、今までも此れからも、私が君を大切に思うこの気持ちは、偽りではないんだよ。これからも変わる事はないだろう。」
彼女の頭に、手を置きゆっくりと撫でた。
「はいっ…今はその言葉だけで充分ですわ。困らせてしまってすいません。」
「私の方こそすまない。明日も早いし、もう休みなさい。」
「はい。お父様も早くお休みになって下さいね。」
千尋は、私を安心させようと無理して微笑み、寝室へと消えていった。
気丈に振る舞う彼女の後ろ姿を見送ると、私は力無くその場にすわり込んだ。
こうして、私達のアメリカでの一日目は幕を閉じた。
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