継恋
でも今日の出来事があった事で余計に、自分の会長としての力不足を痛感した私は、継人の提案を素直に聞けなかった。
「でも、こんな事があった今はそんな風にも行かないわ。」
「こんな時だからですよ。じゃないと外にも内にも、まだ東城グループは安定してないと思われますから。トップに立つ人間は、何処かのボスゴリラみたいにドンと構えててくれてた方が良いんですよ。」
確かに、ここ数年彼から会長を引継いでから、周りの人間に認められたい一心で無茶をしていた私には、ごもっともな言葉だった。
私の行動が裏目に出ていた事など気づく余裕すらなかった。
「そうね。もっと組織のTOPとしての自覚を持って行動するわ。」
私が継人の提案をちゃんと受諾して言葉を返したが、継人から特に言葉は返ってこなかった。
洗い物を済ませた私は、継人のいるリビングへと向かう。
TVをつけたまま、ソファに横たわり、目を閉じている継人の姿を見つけた。
頭の奥にいつも大切にしまっていた、一枚の記憶とその姿が重なる。
良く、幾つになっても子供の寝顔は、変わらないなんて聞いてたが、目の前のその姿は、あの日、私の腕に抱かれて眠っていた姿に似ていた。
今迄堪えていたものが瞳から流れるのが解った。
私は、静かにブランケットをかけて、洗面台に向かった。
鏡に映る自分の瞳は、真っ赤に充血していて、まだ潤んでいた。
つけていた、マスカラの後がまるで、黒色の涙の様に錯覚させた。
暫くして、黒い涙が跡を残し、罪深き醜い自分の姿が鏡に映し出された。
まるで、私に自分が犯した罪の再確認をさせる様にさえ思えた。
私は、直ぐに顔を洗い、クレンジングで化粧を落とした。
それは、自分の罪を認めたくなかった訳でも、罪から逃れる為でもない。
自分が、千尋ではなくリアとして生きる覚悟を改めて示す為だ。
リビングに戻り、静かに眠る継人の頭を静かに撫でた。
「ごめんね。何かしてあげたくて側に置いてみたけど助けられてばっかりだね。ねぇ継人、君にこんな人生を歩ませた私達を恨んでも構わないし、寧ろその方が君の心の中で生きて行けるから私達は幸せだわ。けど私達には、きっとそんな資格は無いわ。でもね、君の幸せを願う資格は私にも麗人さんにもあるの。だから、千尋としてではなく、リアとして今後も貴方を見守る事を許してね。」
心の中で語りかける。声に出せない台詞は、私の中でこだまする。
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