天に見えるは、月
昼休みのチャイムが鳴ったと同時に総務課を出て社食に向かうと、弓削は香凛より少しだけ遅れて社食に姿を見せた。各々、好きなものを注文して、香凛はふたり分のお茶を紙コップに注いでトレーに乗せた。
「あそこの窓際の席でいいかな?」
「はい」
弓削は唐揚げ定食にしたようだ。唐揚げ定食は社食のメニューの中でも一二を争う人気メニュー。香凛はそれと迷ったが、結局日替わり定食にした。今日は好物の回鍋肉だったからだ。
弓削はさっそく唐揚げをひと口齧って呑み込んでから、香凛に問いかけた。
「……で、なにから訊きたい?」
「そうですね、中村課長のアシスタントが具体的にどういう仕事をするのか、という基本的なところ……」
「あー。そこいくよね、やっぱ」
香凛が言い終わらないうちに弓削はそう言って苦笑する。仕方ないな、とばかりに弓削は軽くため息をついた。
「アシスタントっていうのは、簡単に言えばモンドの補佐的な役割、秘書的と言ってもいいかな」
どうやら弓削も“モンド”と呼んでいるようだ。
こちらもそう呼んでも大丈夫だろうか。
「モンドの秘書的な仕事、ですか……」
恐る恐る、香凛は彼の顔を伺いながら“モンド”とあだ名で呼んでみた。弓削は「そうだね」とまったく気にしていない様子でほっとする。
「モンドのスケジュールも完璧に把握しなくちゃいけないし、言われたことはもちろん、言われていないことも先回りしてやらなければいけない」
香凛は回鍋肉を箸でつまんだまま固まった。眩暈がしてくる。