初恋ブレッド
みえないパン
~宮内部長の憂鬱~



……なにこのやっちまった感。

記憶がないわけではない。
昨日のことは普通に覚えている、多分。


よくわからないイライラから、例年は二、三杯で止めるところを気づけば煽るように飲んでいた。
酔うと自分を抑制できなくなる俺の酒癖。
誰しも素が出てしまうものだろうが、普段との差が激しすぎて会社の飲み会では特に控えていた。
それを知る唯一の友人、大介が何度か止めに入ったのに、もう手遅れ。

イライラのきっかけは、社長の言葉。
『恋人』に対し田代があまりにも否定するから。
そんなに俺のこと嫌なのか!と。
年の差か?三十歳はオジサンか?と。
次々と注がれる酒を、自棄になりグビグビ飲み干した。

なぜ一人ムキになってしまったのか。
……大介の言う通り、疲れてんのかな。


よみがえるのはドバドバと酒を被る彼女の姿。
何をされても言い返さない、攻撃性ゼロの田代に苛立った。
透けている服のまま戻る気だったのか、あんまり無防備だから見過ごせなくて。
貸した上着にすっぽりと包まれた田代が、想定外の可愛いさで無性に守ってやりたくなった。
眼鏡の奥は今にも泣き出しそうなんじゃないかと心配しているのに、等の本人は平気だと嬉しそうに笑うから面食らってしまった。

なんだか振り回された気分だ。
実際振り回したのは俺なのに。

「はぁ。頭いてー」

というか田代がいない。
時計を見るとまだ6時前。
あいつどこで寝たんだ?

いつまでも田代の……、いや。
後輩の。
しかも女性のベッドを占領している罪悪感が溢れ、いい加減そわそわして立ち上がった。

「痛っ!?」

途端に何かを踏みつけ下を見ると、ベッドの下で丸くなって眠る彼女を発見。

「あぶねー」

踏むところだった。
……いやでも、何か踏んだな。
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