初恋ブレッド
なかよしパン
「ふぁーっ」

朝陽の射し込むベッドの上であくびをしながらゴロンと寝返りを打ち、また寝返る。

昨日は色んなことがありすぎて、私の人生史上初のフィーバーに冷めやらぬまま帰宅。
今日が土曜日で良かった。
よくわからないほどの胸のトキメキと浮かれ具合が手に負えない。

「ふふっ」

何もしていないのにニヤニヤと滲み出る笑顔。
目標を達成する前に叶った夢。

宮内部長が、私のことを好きだと言ってくれた……。

「夢みたい」

こんな私に……。

……部長は、こんな私のどこを好きになってくれたんだろう。

「パン?」

悲しいけれどそれくらいしか思いつかない私のメリット。
まだまだ外見も中身も彼に釣り合わないから、日々精進しなければ。
いつか宮内部長が自慢できるような彼女に……!
自分の頬をぎゅっとつねって、現実であることの確認と新たな目標に気を引き締めた。

「はぁ。宮内部長……」

今何してるのかな。

昨日のハプニングで白坂先輩と残業をして終電で帰った私。
でも部長はもっと遅かったみたいだから、まだ寝てるかも。

帰り際にドキドキしながら「お疲れ様です」と声をかけたら普通に返されたし、夜も更けていたから連絡も取っていないし、あの告白が本当でも私はそこまで意識されていないみたい……?
いや、そもそも仕事と恋愛は混ぜちゃダメか。

私はガバッと布団から飛び起きて顔を洗い、身支度を整えた。
うだうだしていたらそのまま病みそう。



まずは眼鏡を受け取りに行かないと。
それからパンの材料を買い出しに。



タンッと足踏みをして外へ出る。
雨が上がりよく晴れた青空に笑顔を送った。

ピンクのリップに淡いチーク、アイシャドーとマスカラは控えめに。
引っ越してきた勢いで買ってみた、優しい色合いが可愛い花柄のフレアワンピース。
初めて袖を通すと、地味な私が今だけはプリンセス。

……な、気分。

部長に会えるわけでもないのにお洒落したいと思っちゃう。
見知らぬ土地が怖くて俯いて歩いた道も、今日はよく見える街並み。
一人でだって、どこへでも行けそう。

恋の力は偉大ですね。


おめかししても、目的地は眼科ですが。
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