女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
滝本さんが冷たいとも思える声で返した。
「お前がいたら、暴行罪で捕まえることが出来なかった。そしたらまた、次の機会を狙われるだけだ」
機嫌を損ねた桑谷さんがぷいと横を向いた。
滝本さんはそれを呆れたように見て、私を振り返り、聞いた。
「何も伝えてなかったのに、どうして判ったんですか、生田刑事がいることに」
私は、違います、と顔の前で手を振る。
「・・・この人が」
太郎さんを指差す。
「警察の方なんだ、と思ってました」
そして帰り道に細川に話しかけられたところから話し出した。
倉庫でもう一人男が出てきたときは、本気で覚悟を決めたこと。こんな暗くて静かな倉庫に警察が待機しているとは思えなかったこと。どうにか自分でこの危機をクリアするしかないと思ったこと。
「でも」
細川がナイフを取り出した時に、この男性が一歩後ろに下がって、そして―――――
「ウィンクしたんです。何かの合図に違いないと思えるほどハッキリと」
だから、警察がこの場にいるのだと判ったのだ。そして、この男こそがそうなんだと思った。実際には、それは勘違いだったけど。
「だから、細川を取り抑えるのを待ってもらおうと思って、言ったんです。まだ、駄目よって」
切り付けられてはいたが、味方がいるとハッキリしたことで力が沸いた。
そして私は隙を作って殴り倒すことに成功した。
そのくだりを話している間、男3人はただじっと聞いていた。