女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 やがてまた長いため息を吐いて、手で髪の毛をかき回しつつ、桑谷さんが言った。

「―――――・・・つまり。君はナイフを突きつけるストーカーを挑発もした挙句、暴言も吐き――――」

 滝本さんがあとを継いだ。

「更に犯人を殴り飛ばして―――――」

 太郎さんまでが繋げた。面白そうな顔をしていた。

「しれっとした顔をしてここに戻ってきて、目の前で笑っている」

 私は均等に男どもを眺めて、頷いた。

「そうね」

 何となく、男性陣が脱力したのが判った。

「・・・強いね」

 太郎さんが面白そうな顔のまま言った。

「逸材だぜ、彰人」

 滝本さんが元パートナーの肩を叩く。桑谷さんが疲れた顔で言った。

「まさしく、あらゆる意味でな」

 ・・・・どういう意味でよそれ。詳しく聞くわ、あとで必ず。私は心の中で拳を握り締める。

「本当はナイフを出した時点で取り押さえるつもりだったんですが、この人がどんどん細川を怒らせるので間に合わなかったんです」

 太郎さんがそう言って桑谷さんに向き直った。すみません、と。桑谷さんは不機嫌な顔のままで首を振る。

「彼女ならしそうなことでした。まさか、と思いましたけど。仕方ないです」

 滝本さんが、くくくと笑った。

 既に時刻は夜の9時。さんざんな帰宅時間で晩ご飯もまだ。細川は警察にいるし、私はまた事情聴取に呼ばれるだろうから、今夜はこれで、と男性二人にはお引取り願った。


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