女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 どちらも早番で、しかも閑散期だったので、6時には仕事が終了した。

 百貨店から近くの部屋に移っている私は、買い物をしても6時半には帰ることが出来る。

 スーパーのビニール袋を提げて自分のアパートに戻ると、見上げた二階の自分の部屋に明かりがついているのに気付いた。

 どうやら桑谷さんはもう来ているらしい。

 しばらく立ったままで呼吸を整えて、階段を上がっていった。

 廊下に響いたヒールの音で気がついたらしく、部屋までもう少しってところで先にドアが開く。

 不機嫌なのを隠そうともしない彼が、ドアを抑えて私を通した。

「――――――お帰りもなし?」

 私はビニール袋を台所に運びながら言う。後ろから入ってきた彼が低い声でお帰り、と呟いたのを聞いた。

 淡々と冷凍食品と生ものを冷蔵庫へ仕舞う。

 動きながら、何をどう聞こうかと考えていた。そうしたら、その内面倒臭くなってきた。・・・大体、何で彼が不機嫌なのよ。放って置かれたのは私でしょうが。

 冷蔵庫を閉める前に取り出した水をペットボトルから直接飲んだ。ゴクゴクと音を立てて飲み干す。

 ・・・・何か、またムカついてきた。

 後ろで腕を組んで壁にもたれている彼をちらりと見て、言った。

「・・・・機嫌が悪そうですね、桑谷さん」

 視線が空中で絡んだ。高まっていく緊張感が、部屋の空気を暗くしていく。

「・・・」

「・・・どうして私が睨まれてるのか判らない。でも、仕事帰りに機嫌が悪い人と一緒にいるのは嫌だわ。どうぞ、帰ってくださいな」


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