それでも私は恋をする

そらす

「ねえ、腕! 離してよ。変だよ」
 そう、なぜか帰りも私の腕を拓海君は握ってる。
「あ、ああ。ダメ? なんか面倒臭いんだけど。騒がれて」
 騒がれて面倒って……あの見物してた女子を思い出す。
「さっき……私の傷を利用したの? それで保健室に?」
 あの女子の視線がいっぱいの場所から逃げるためだったのか。
「アリスなんで彼氏いないの?」
 なんで、私の疑問を別の疑問で返すの。そして、一番話したくない話を聞いてくるの?
「私が質問してるの! っていうかこの話はこれでお終い」
「えー?」
「あとは……家で話す」
 このまま話さないで通れないんじゃないかって思えた。なんか拓海君がそんな雰囲気……だから?

 走って教室へ行こうとしてまた拓海君に腕を掴まれる。
「もう!」
「激しい運動は禁止だろ。それに一緒に帰った方が自然だって。一緒に保健室に行ったのに帰りは別々の方が不自然だろ?」
「うーん……。わかった」

 はたしてこれは本当に自然だったんだろうか? 痛いぐらいの女子の視線を浴びてるんだけど。ようやく五組の前にたどり着く。あ、果歩。私に気づいて果歩がこっちに来る。質問攻めか? いろいろなことを想定しながら私も果歩の方へ行く。
 あ、そうだ忘れてた。
「たく、安田君、ありがとう」
「ああ」
 ざわめく女子の中、慣れてるのかな? 女子の視線を全部無視して通り過ぎて行く拓海君。
「アリス! ごめん。指の怪我のこと忘れてて。傷、大丈夫だった?」
「あ、うん。激しい運動は禁止みたい。傷口が広がるからじゃないかな」
 う、自分で言って想像して気分悪いよ。傷口が広がるとこ。
「と・こ・ろ・で!」
 ああ、嬉しそうな果歩。果歩がこんなに私に彼氏を恋をというのは自分が恋に浮かれているからではない。知ってるからだ。2年前の私の恋を。いや、3年前からのか。私の部屋の隣の部屋にいた彼の話を。そして、その彼を忘れられずに今も恋が出来ずにいる私を。
「安田君とはどうだったの? 優しいよね! 初対面のアリスの指の傷に気づいて保健室まで連れてってくれるなんて!」
「どうもないよ。保健の先生にこれを貼り直してもらっただけだから」
 と、自分の教室に向かいながら果歩を今度は私が引っ張る。
「その割には時間かかったよー!」
 果歩どうしてもこの話を発展させたいんだね。
「先生がお昼に行ってて居なかったから二人で保健室で先生を待ってたの」
「何して?」
 果歩ってばめっちゃ期待してる聞き方だな。
「話をしてただけ。怪我のこととか」
 果歩には嘘はつきたくないけど、前のことがある。あれ? 私なんで果歩に拓海君が同居人だってバレたくないって思ってるんだろう? 果歩は口が硬い。果歩にバレたからって話が広がるわけじゃないのに……。
「ふーん。話をねえー」
 まだ話を聞きたそうだけど、教室に着いた途端、チャイムがなった。時間切れで助かった……なんで、そう思うんだろう……?


 *

 なんとか果歩の好奇心をそらして放課後へと持ち込む。果歩の彼氏はバスケ部。果歩はいつも彼氏のバスケ部を見学してるから放課後まで来たらもう大丈夫。
「果歩また明日ね!」
「ああ、うん。ねえ、アリス、今日はバスケ部の見学とかは……」
「見学はしないから! じゃ、明日ね」
 どうしても聞き出したいな、果歩。というより、私の気持ちが知りたいのか。
「うん。明日ね。アリス」

 *

 買い物をして帰ろうとしたら後ろにいたみたいで、スーパーに入るなり拓海君が来た。
「俺が作るから俺がメニュー考えるからな」
「あ、うん。そうだね」
 なんだか変なの。彼とは買い物は一緒に行ったことなかったなあ。……って、ああ、いちいち彼の回想するのもう嫌だ。
「アリス?」
「ううん。何作るの?」
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