それでも私は恋をする

失恋話をする

 家に帰って買って来た食材を冷蔵庫しまうのも作る人にまかせて私は自分の部屋に入る。
 はあー。どうしよう。あの時、家で話をすると言ってしまった。そして、家に帰って来ちゃった。どう話すの、私? 私の恋だった……だけど一方通行だったのかなんなのかわからない私の恋の話……。

 コンコン

 拓海君はもう痺れを切らしたか。早いな、来るのが。
「待って! 今、着替えてるの」
 心の準備が出来ていない。思わず嘘が口から出ていた。悩んでいてまだ制服のままなのに。
「ああ、わかった。じゃあ、着替えたら部屋に来て」
「うん」
 ええ! あの部屋で彼の話をするの? 着替えてるなんて嘘ついて時間を稼いだバツだね。

 急いで着替えて彼の、拓海君の部屋に行く。すぐ隣の部屋。ノックするの久しぶりだなこのドアを。

 コンコン

「どうぞ」
 ドアを開ける。拓海君はベットに腰掛けている。あの日の彼、類のように。なんとなく私はその横に座る。そう、あの日の私のように。
「で、あの時に話せない程の理由って何?」
「この部屋」
「は?」
「この部屋に2年前までいた人が原因」
「2年前って……俺の前にこの部屋にいたっていう大学生で……1年以上いたっていう?」
 拓海君、よく覚えてるな。
「そう、来た時には私は中学生で彼は大学生だった。でも一年たって、私が高校生になったけど彼は大学生のまま。なんか近づけた気がした。でも、彼は自立のメドがたってここを去る事になったの。そう聞いて私は焦った。で、ここにこうやって並んで座って告白したの」
 類に好きだと言った。離れたくないと。ここにいて欲しいんだと泣いて頼んだ。抱きつきもした。でも、彼は、類は去って行った。
「で?」
 で? って、この先も話すの? わかってよ! それから私は恋してないのに。彼氏がいない理由なのにわかってよ。
「で、彼は私を拒否はしなかった……2週間は。2週間後にこの部屋を、この家を去ってった」
 同情だったんだろうか。拒否する態度はなかった。だけど、それもこの部屋にいる間だけだった。
「出て行った後も連絡とってたんだろ?」
「私の一方通行でね。それだって、いつも忙しいって言われて終わり。折り返しの電話もメールの返信もない。だから……」
 ああ、終わっとけば良かったそこで。気づけと、今の私なら思う。自分で話をしてて。
「だから?」
 拓海君はこの話にどこまでも食いつくな。こんな話を聞いてどうするつもりなの? 人の傷口ほじくり返して。
「だから、夜まで彼の家の前で帰ってくるの待ってた。そしたら、帰って来た。女の子と」
 そう。私と一緒にいた時、この部屋にいた時にも類には彼女がいたんだろうか? いろいろ考えて苦しんだ。苦しんだ自分を思い返して、また苦しんでをずっと繰り返してる。だから、ずっと、その時から恋ができないでいる。
「で? そいつに聞いたの?」
 そんなに私が図太い神経を持ってるように見えるのかな?
「何にも、何にも聞かずにその場から走って逃げた」
「そいつから連絡は?」
「全くなかったよ。全くね。一言の言い訳も何もなかった」
 そう私を引き止めておきたい理由が類にはなかったんだ。ただの一言も。
「ふーん」
 はあー。こんな話をふーん。で流す?
「今、彼は大学生?」
 何の確認?
「そう4回生だけど……それが何か?」
「いや。ふーん」
 また、ふーん、って。
「もういいでしょ。じゃあ。宿題するし」
「ああ」

 *

 なんだったのよ。人の傷口ほじくり返して。私は拓海の傷口ほじくり返さないようにって気をつけてるのに!
 宿題に全く身が入らないよ。ダメージが大きいよ。ただでさえ拓海が来ていろいろと思い出して苦しかったのに。なんとか無理矢理、宿題を終わらせた。いつもより時間かかったのかな?

 コンコン

「飯だよ」
「わかった。すぐに行くよ」
 もうご飯の時間なの? と、時計を見ると早いよ。昨日よりもずっと。拓海君は早くに宿題終わったのか。私とは違って。

 *

 食事が終わった。拓海君やっぱり日常的にご飯を自分で作ってたな。美味しかった。でも、聞けない……いくら自分の傷口ほじくり返されても、傷の度合いが違うだろうから。
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