部長っ!話を聞いてください!


「アレ、食べたいなあ」


イチゴのショートケーキに目を奪われ、ぽつりと独り言ち……私はハッとする。

恐る恐る視線を上げると、ショーケースの向こう側に立っている店員さんと、しっかり目があってしまった。

曖昧な笑みを浮かべながら、私はゆっくり、ケース前から一歩後退する。

ケーキに心を奪われている場合ではなかった。まだプレゼントを購入していないのだから。

いろいろお店を見て回った結果、私はカフリンクスを買うことに決めた。

そのため、先ほど立ち寄った店に戻ろうと歩いていたのだが、うっかり、美味しそうなケーキを見つけてしまい……今に至る。

もう一度、ショーケース内に並ぶケーキに目を向けたのち、名残惜しさを断ち切るように、私は歩き出した。

ケーキを食べたいのならば、買って帰れば良いだけの話だけれど……一人で食べたいわけではない。

部長の誕生日をお祝いしながら、一緒にケーキが食べたいのだ。

会社の休憩時間に、総務部のみんなで楽しくケーキを食べるのも楽しそうだけれど、折角の誕生日なのだから、例えばどこかのお店とか……部長の家とかで……。

自分の考えに、つい足が止まる。頬の熱が上昇し、口元も緩み出す。


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