部長っ!話を聞いてください!

部長は立ち止まることなく、私の横を通りすぎて行った。

そして、部長が呼び止めたのは、ちょうど廊下に出ようとしていた先輩だった。


「えっ!? なんですか、神崎部長! あっ、もしかして、食事行けちゃったりしますか?」

「話がある」

「えーっ!? なんですか~!?」


部長に腕を掴まれ連れて行かれる先輩の声は、とっても弾んでいた。

切なさでどんどん気持ちが沈んでいく。

ぎゅっとショッピングバックの持ち手を握りしめた瞬間、再びポンポンと肩を叩かれた。


「土屋さん、部長に話聞いてもらえた?」


肩を叩いたのは、昼間、休憩時間だと助け舟を出してくれた男性社員だった。


「話、ですか?」


その人の一言で、プツリと感情の線が一本切れた。


「全く聞いてくれません! 部長は、私とは話をしたくないみたいですっ!」


切なさの中に、怒りが生まれた。

「お疲れ様でした!」と力強く言ってから、空いてる手で鞄を掴み取り、私はフロアを走り出た。




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