部長っ!話を聞いてください!

苦笑いし言葉を返すと、彼女も私と同じように苦笑いしながら「お疲れさま~」と言い、私の隣を離れて行った。

遠くへ視線を伸ばせば、パソコンに向かっている部長の姿が見えた。

きゅっと胸が苦しくなるのを感じながら、私はカラリと引き出しを開け、そっと、部長への誕生日プレゼントを取り出した。

家は知ってる。

けどプレゼントを持って自宅に押しかけたら、迷惑に思われる可能性大である。

これ以上、嫌われたくはない。

やっぱり、渡すなら社内での方が良いのかもしれない。

私はプレゼントを持って、ゆっくりと立ち上がった。

部長へ向かって歩こうとした――……けど、足が前に進まなかった。

前に進みたいのに進めなくて、もうどうしたら良いのかが分からない。


「……部長」


ぽつりと声を発すると、部長が視線をあげ、私を見た。

ほんの数秒見つめ合ったあと、部長もカラリと椅子を鳴らして、席を立った。

こちらに向かってくる。


もしかして、私の所に来てくれる?


――……沸き起こった期待は、部長の手に先輩が渡したプレゼントがあることに気付いた瞬間、消えていった。


「……ちょっといいか?」


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