部長っ!話を聞いてください!

渡したい、誤解も解きたい……いっそ、部長への私の気持ちも……。


「無理無理無理無理」


焦り気味に連呼すれば、ハウリング音が響き渡った。

慌ててマイクのスイッチをオフにし、テーブルの上に静かに置く。

カラオケはもう終わりだ。


「無理だけど……」


こんな状態で告白したって、断られるのが目に見えているからできない。

……けど、いつかは、自分の気持ちを伝えたい。そう思っている。

その時ちゃんと向き合ってもらうためにも、今しなきゃと思うことを精一杯しておきたい。

これ以上、離れていってほしくなんてない。

だから、部長が逃げるなら、どこまでも追いかけていく!

私にできることはそれだけだ!

覚悟を決め、私はソファーから立ちあがった。






深夜まで営業しているドラッグストアに立ち寄り、消臭剤の詰め替え用を一袋購入した後、私は自宅マンションまで全速力で走った。


この勢いのまま、部長の家に押しかけてやる!


マンション前に到着し、私はやっと足を止めた。

息も絶え絶えに顔を上げ、ハッと目を見開いた。

三階の一番端のベランダに、ほんの一瞬、人影が見えたような気がしたからだ。


「……部長?」


そこは部長の部屋だ。


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