小悪魔な彼にこっそり狙われています
2.ささやく魔法
『井上さんのこと、好きだったんで』
どれだけ他のことを考えようとしても消えない、彼の言葉と、唇の感触。
ありえない、信じられない。
そう思うのに、体の奥は彼のキスをきちんと覚えていて、あの夜の感触を微かに思い出させた。
「だから……この仕事は昨日までにって言ったでしょうがー!!!」
あれから数日が経ち、今日も昼間のオフィスには私の怒鳴り声とバン!とデスクを叩く音が響く。
それらに、デスクの目の前に立つ彼女……町田さんは、肩をすくめた。
「期限厳守するように言ったでしょ?それをまだ手もつけてないってどういうことなの?」
「す、すみません……他の仕事に追われてて、出来なくて」
「ならどうして他の人に相談しないの!」
今日も相変わらず、仕事の提出が遅れた町田さんに私は厳しい言い方で叱る。
そしてこれまた相変わらず、その言い方に町田さんは俯いた。