小悪魔な彼にこっそり狙われています
「井上さん……あの、聞いてます?」
「へ!?あっ、うん!?」
って、はっ!聞いてなかった!!
突然かけられた声にふと我に返ると、隣の彼は疑わしそうに私を見る。
その様子からどうやらなにか話をしていたらしいけれど、明らかに聞いていない返事をした私に、彼もそれを察して再度口を開いた。
「設備不良、そこの男子トイレの水詰まりなんですけど大丈夫ですか、って聞いたんですけど」
「あ、そうだったの……うん、大丈夫。中に誰もいなければ」
「多分いないと思いますけど」
来栖くんはそう言いながら、私よりひと足先に角を曲がったところにある男子トイレへ入り中を覗く。
そして誰もいないことを確認すると、「ここです」と私を蛇口のほうへ手招いた。
彼が示す、男子トイレの手洗い場の一番右にある蛇口。
水の蛇口をキュッキュッとひねるものの、蛇口の中が詰まってしまっているのか水が出てこない。
「本当だ。多分簡単な修理で済むと思うけど……一応水道業者呼んでみる」
「よろしくお願いします」
修理が必要と確認をし、水道業者はどこがよかっただろうかと頭の中で思い浮かべる。
そんな私の顔を、来栖くんは相変わらず表情ひとつ変えず見つめた。