小悪魔な彼にこっそり狙われています
その後、私と来栖くんは時間ぎりぎりまで犬たちと遊び、特に食事などもせず普通に別れ家路についた。
来栖くんは『送りましょうか』と相変わらずぼんやりとした顔のまま言ってくれた。
けれど私の家はすぐ近くの大崎だし、それに自宅の最寄り駅まで来ている彼に送ってもらうなんて気が引けてしまって、断りひとりで帰った。
こういう時に『じゃあお言葉に甘えて』と言えないあたりが、またかわいくないのかもしれないとも思う。
それでも彼はそんな私にも『井上さんらしいですね』と小さく笑ってくれて。
珍しく彼が何度も見せてくれた笑顔に、なんだか少し心が温かく感じられた気がした。
それから一晩が明けた、翌日。私はいつものようにカツカツとヒールを鳴らしながら会社へとやってきた。
今日はなにかあってもきつく言い過ぎない、言い過ぎたらフォローもする……。
そう言い聞かせるように心の中で繰り返しながら廊下を歩き、総務課のオフィスのドアを開けた。