女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 取りあえず、早番で帰ってるはずの桑谷さんの尋問を家で受けなきゃなんない。もう面倒臭いから、悪阻ってことにして、うう~とか、苦しんでみせる?倒れてみせるとか。そしたら短時間で終わらせれるかも、などとあくどい事を考えながらロッカーを出て店員通用門を出ると、少し先に壁にもたれる長身の影を発見した。

 ・・・・・・くそ。何て先回りする男なんだ。

 私はため息をついて彼の元へ向かう。

「・・・何してるの?」

 一応聞いてみる。眉をあげた彼は、別に機嫌は悪くなさそうだ。

「懐妊した妻を迎えに来た」

「・・・それは、どうも」

 すると彼はそれ以上は言わず、私の荷物を奪い取ってするりと手を握り、歩き出した。

 私は隣を振り仰ぐ。

「怒ってないんですか?」

「君の秘密主義に腹を立てるのは諦めたんだ」

 彼は淡々と答える。

 ・・・・それは、賢い。ってか、別に秘密主義なわけじゃないんだけど・・・。反応が読めなかったから言わなかっただけで、しかも、タイミングもいつも微妙だったし・・・。

 私が口の中でもごもご言い訳をしていると、彼の声が聞こえた。

「それで、夏前からの色んなことが合点いった。アルコールを止めたとか、ふれあいが減ったとか、体調不良とか、感情の起伏が激しいとか、あの出血の時、君が嵐のように去っていったのとか。―――――病院に行ったんだな」


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