女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~

2、こうやって皆続いていく



 秋が来た。

 玉置さんは繁忙期が終わって秋の人事異動の前に百貨店を辞めたらしい。その後どうしたのかは知らない。だけど、あの病的な性格がちょっとはマシになっていて、彼女は彼女なりの幸せを見つけてくれてればいいなあ、と思う。

 空が高くなってきた。風もよく吹くこの家は、今が一番過ごしやすい。私は毎日ゆっくりと家事をして、散歩がてら彼のお母さんを訪ね、デパ地下に行っては世間話をしている。

 予定日は、何と私の誕生日に近いのだ。来年の1月の終わり。さて、どうなるか。それは、夫婦で賭けている。


 私が身重なので、今年の正月は娘の見舞いと義理の息子との対面と娘夫婦の新居のお披露目との全部を兼ねて、うちの両親が沖縄から出てきた。

 何と、桑谷さんは初顔合わせ。

 だけど大して緊張もしてなくて、いつものように余裕気に笑っていた。家族ちっくな行事がすごくイメージ無かったけど、彼はすんなりと小川家に溶け込んだ。

 元々我が家がユニークだったのもあるかもしれない。

 母は笑顔満面で会うなり握手を求め、それを力強く握ってからじっくりと彼を観察して言った。

「想像していたのと同じだわ!私って凄い。あなたならまりを扱えるはずね!めげずに頑張って頂戴!」

 そして呆気に取られる彼を父のほうに押しやり、まり~!家見せてね~!と入って行ってしまった。

 私はそれを笑いながら見ていた。

 父はゆっくりと歩いて行って、彼に会釈していた。

「やっと会えた。桑谷君、娘を貰ってくれてありがとう」

 彼も穏やかに微笑み、二人は談笑していた。大人な会話だった。最後には一年の暮れだというのに男二人で経済論を話していた。まったく鬱陶しい。


< 132 / 136 >

この作品をシェア

pagetop