女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 私は廊下に出て、庭の牡丹を眺める。

 私がもし、子供を産んで――――――

 完全に、呪いを解けたなら。その子の存在で、親の気持ちを彼が判るようになったなら・・・・そうなれば、関係は変わってくると思う。

 彼も、お母さんも。そして多分、私も。


 またお腹を撫でてしまう。


 ・・・・ここに、いるの?心の中で問いかける。


 君は、いるの?




 毎年少しずつ時期が早まって、5月も中旬から、中元のギフトの早期割引が始まった。

「まだ夏は先じゃないよ~・・・」

 ぶつぶつ言う竹中さんに、それはもっともだけど、と頷いて、さあさあと店長はお尻を叩く。

 ギフトの見本を出しにいく役目は熾烈なじゃんけんの結果、竹中さんに決定したのだ。

 私はそれを笑いながら見ていて、そういえば、この時期だったな、ここの店に男への復讐のためにもぐり込んだのは、などと考えていた。

 1年の差は、デカイ。

 去年と今年ではあまりにも違いすぎて、その差にクラクラするほどだ。

 そんなわけで早期割引が始まって日々の業務が若干増えてきたある日の昼前、私は遅番の出勤で、売り場に入る11時半に間に合うようにとロッカールームのドアを、10時50分に開けた。

 ずらりと並ぶロッカーの2列目に入って行き、最初に出くわしたのは一番会いたくない人だった。

「あら、おはよう、小川さん」

 玉置さんが本日も輝きを放ちながらにっこりと笑う。


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