イジワル同期とスイートライフ
小さなキューブ型のチーズの、アルミの包装を剥きながら、小さく息をつく。

私の視線に気がつくと、手の中と私を見比べて、仕方なさそうにそれもくれた。

そうじゃなかったんだけど、もらっておく。



「まあ、私は真面目だったから、特に話すようなネタもないんだけどね」

「ケンカ売ってんのか」

「自分で話すほうが気が楽なんじゃない?」



覗き込んだら、顔を押しのけられた。



「その手に乗るか」



ねえ久住くん。

花香さんと一緒にいるところを私に見られても、少しも動じなかったのはなぜ。

後ろ暗いところがまったくなかったから?

それとも、気にする必要もないと思ったから?


言い争うふたりを見ていると、微笑ましいんだけど、やっぱりどこか痛い。

私はあんなふうに、本音でぶつかる関係には到底届いていない。



「なんだよ」

「なんでもないよ」

「なら見るなよ」



なのにそうやって、耳を染めてくれたりする。

プライドを見せてみたり素直だったり、忙しい。

くすくす笑う私を横目でにらんで、久住くんは悔しそうに唇を噛んでいた。



 * * *


「ごめんね、WDMの件、途中で離脱して」

「とんでもないです、お世話になりました」



さすが久住くんの先輩と言おうか、乾杯したばかりなのに、向井さんはもうジョッキを空にしている。

今夜はけっこうな量いきそうだ。



「こちらこそ、いろいろ勉強になったよ」



ささやかな壮行会の会場は、純和風の居酒屋だ。

海外に行くと、絶対こういうのが恋しくなるから、と久住くんが選んだお店だ。

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