イジワル同期とスイートライフ
それじゃあ! と私に手を振って、エレベーターに飛び乗って行ってしまった。

やっぱり恥ずかしかったんだろう。

かわいい。

久住くんはまだ、どことなくぼんやりして、花香さんの消えたほうを見ている。



「ショック?」

「ん…いや、どうだろな」



声をかけると、はっと動き出して、戸惑いを見せながらも笑った。



「複雑?」

「なんだよ、絡むな?」

「いいじゃない、教えてよ、どんなお気持ちですか」



本気で聞いてみたくもあり、またしても自虐的な思いもあり、なにも持っていない手で、マイクを向けるふりをしてみる。

久住くんは照れくさそうに足元を見て。



「まあ、あいつが幸せなら、嬉しいです」



彼らしい飾らなさで、そう答えた。


 * * *


「こういうの、置いといてもいい?」



洗面台の戸棚を開けて、久住くんが中を見ていた。

歯ブラシとかシェーバーとかってことだろう。



「いいよ、もちろん」



ベッドの上で洗濯物をたたみながら返事をする。

半分は久住くんのシャツや下着だ。


スーツとか、ワンセット置いていけばいいのに。

そうしたらいつだって泊まりに来られる。

でも、そうしたものを片っ端からスーツケースに詰めている様子を見ていたら、言い出せなかった。

この生活も、いよいよ終わりが見えてきた。



「ほんとに手伝ってもらっちゃっていいの、引っ越し」

「いいよ、どっちの部屋に行けばいい?」

「今の部屋かな、時間差でどっちかが新居に行く感じで」

「掃除用具持っていくよ」

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