イジワル同期とスイートライフ
声が消え入ってしまう。
たぶんそれは、彼なりに一番時間の無駄がないよう取り計らった結果だ。
メールで返して、修正の意図を説明して、聞き返されて…なんて手間をかけるくらいなら、顔を合わせて手っ取り早く、と考えたに違いない。
採点をしたわけでもなく、資料を双方にとってよりよいものにするための作業なのだから、失礼とは言いきれない。
けれど、そもそもからして気に入らない相手からそれをやられたら腹が立つという幸枝さんの気持ちも、まあわかる。
「天下の海外営業様だからね、仕方ないけど。昔はよかったなあ」
「国内のほうが元気だった時代もあったんですよね」
「つい最近だよ、立場が逆転したの」
そう、今でこそ海外営業部が花形と言われているけれど、私の入社する前は、国内営業部のほうがはるかにエリートとされていた。
それは単純に売上比率の問題で、海外販売に力を入れはじめて数年、成果が出たとたんに国内と海外の売上ががらりと逆転したのだ。
それまで肩で風を切って歩いていた国内営業部は一転して日陰に追いやられ、代わりに海外営業部が脚光を浴びることになった。
私が入社したときは、ちょうどその逆転の直後で、両部門のいがみ合いはもっと露骨だった。
というか国内営業の、海外営業に対する敵愾心が今以上に強かった。
「最近じゃ、それが当然って空気だもんね」
「私たちも頑張らないとですねえ」
「予算取るのも難しくなってきてるし、立場弱いってきついわ」
不満そうにため息をつかれて、板挟みにあっているような気持ちになった。
「ああ、黒沢(くろさわ)さん? 気に食わねえってオーラ、出てたよ確かに」
「あっ、なんだ、気がついてたんだ」
「気づくだろ、あれだけ出されりゃ」
夕方、社内にあるカフェに飲み物を買いに来たところ、ガラスで分煙されている喫煙所にひとりでいる久住くんを見つけた。
初めて入った喫煙ブースの中は、想像ほど煙たくない。
「ごめんね、って私が謝ることじゃないんだけど」
「あのへんの年代は、国内市場の趨勢の影響をもろに受けてるから、過敏になるんだろうな、どうしても」
たぶんそれは、彼なりに一番時間の無駄がないよう取り計らった結果だ。
メールで返して、修正の意図を説明して、聞き返されて…なんて手間をかけるくらいなら、顔を合わせて手っ取り早く、と考えたに違いない。
採点をしたわけでもなく、資料を双方にとってよりよいものにするための作業なのだから、失礼とは言いきれない。
けれど、そもそもからして気に入らない相手からそれをやられたら腹が立つという幸枝さんの気持ちも、まあわかる。
「天下の海外営業様だからね、仕方ないけど。昔はよかったなあ」
「国内のほうが元気だった時代もあったんですよね」
「つい最近だよ、立場が逆転したの」
そう、今でこそ海外営業部が花形と言われているけれど、私の入社する前は、国内営業部のほうがはるかにエリートとされていた。
それは単純に売上比率の問題で、海外販売に力を入れはじめて数年、成果が出たとたんに国内と海外の売上ががらりと逆転したのだ。
それまで肩で風を切って歩いていた国内営業部は一転して日陰に追いやられ、代わりに海外営業部が脚光を浴びることになった。
私が入社したときは、ちょうどその逆転の直後で、両部門のいがみ合いはもっと露骨だった。
というか国内営業の、海外営業に対する敵愾心が今以上に強かった。
「最近じゃ、それが当然って空気だもんね」
「私たちも頑張らないとですねえ」
「予算取るのも難しくなってきてるし、立場弱いってきついわ」
不満そうにため息をつかれて、板挟みにあっているような気持ちになった。
「ああ、黒沢(くろさわ)さん? 気に食わねえってオーラ、出てたよ確かに」
「あっ、なんだ、気がついてたんだ」
「気づくだろ、あれだけ出されりゃ」
夕方、社内にあるカフェに飲み物を買いに来たところ、ガラスで分煙されている喫煙所にひとりでいる久住くんを見つけた。
初めて入った喫煙ブースの中は、想像ほど煙たくない。
「ごめんね、って私が謝ることじゃないんだけど」
「あのへんの年代は、国内市場の趨勢の影響をもろに受けてるから、過敏になるんだろうな、どうしても」