イジワル同期とスイートライフ
はい、おっしゃるとおりです。

追い立てられるようにしてバスルームに入り、お湯を浴びた。

だんだん頭が晴れてくる。

そうすると心も少し軽くなって、久しぶりに深く呼吸できた気がした。



「リコちゃん、電話だよ」

「えっ」



ドアの向こうから聞こえた声に、急いでシャワーを止めた。



「あっ、賢児くんかはわからないんだけど」



水を垂らしながら脱衣所に上がった私に、姉が申し訳なさそうに携帯を渡す。

表示を見ると"公衆電話"とあった。



「初めて見た、この表示」

「いいから早く出なさい」



期待しすぎないように、ちょっと気持ちを整理してから、通話を押した。



「…はい」

『あ、六条? 俺』



思わず携帯を握りしめた。

久住くんだ…!



『よかったー、番号合ってた。話すと長くなるんだけど、携帯なくてさ』

「ね、今どこ」

『えっ? えーと、空港から帰るとこ』

「迎えに行く。乗り換えの駅に着くの何時?」

『ええと…あと1時間半くらいかな』

「すぐ出るから!」

『待て待て、携帯ねえんだって。場所決めないと会えないんだよ』



あっ、そうなるのか。

その駅にあまり詳しくないから、わからない。



『えーと、一番でかい改札わかる? くそ、改札名覚えてねー』

「行って探してみる」

『外に時計があるとこな』



うん、と言おうとしてくしゃみが出た。

久住くんが『どした?』と気にかけてくれる。



「シャワー浴びてて…」

『なに慌ててんだよ』

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