イジワル同期とスイートライフ
「あれが普通の反応なんだろうな、国内営業の」

「聞いてはいましたが、いざ直面すると、残念な気分になりますね」

「残念、な。わかる」



すぐに仕事を始める気にならず、久住は向井を煙草に誘った。

腹が立つほどでもないし、不快というのも違う。

海外営業部に好感情を抱けない、向こうの心理は理解できる。

が、共感はできない。


だって仕事だぜ。

喫煙所に入るとすぐに煙草をくわえ、火をつけた。



「あの六条さんて、同期なんだろ」

「みたいですね」

「気をつかっちゃって、見ててかわいそうだよな」 

「まあ、仕方ないんじゃないですか」

「乾いてるな」

「そんなことないですけど」



ふたつの部署の関係が、今の構図に収まってから入社した久住と彼女は、家庭同士の不仲を聞かされて育った子供みたいなものだ。

彼女のほうは特に、周囲がいまだに怨恨の渦中にあるせいで、やりづらいだろう。

相手の家の子と仲よくすれば、親に叱られる。


くだらないよな、と心中で話しかけた。

でもそれが今、彼女がいる部署の現状だ。

そこでやっていくしかない。



「おっ、久住だ、なあ国内と仕事してんだろ、どうなの」

「俺、見ちゃったよ、なんかきれいな子がいたよな」



そこに営業部の先輩社員が2名、騒々しくやってきた。

久住を見るなり肩を抱いて、なあなあと絡みつく。


苦笑する向井と目を見合わせた。

思うことは同じだ。

こっちはこんなにのんきなのに。



「あの子、久住の同期なんだよ」

「マジか! 今度飲ませろ」

「そのうちセッティングしますよ」

「そのうちってなんだよ、逃げる気か」

「逃げませんよ、そのうちね」



はいはいと彼らの肩を叩いて約束した。

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