イジワル同期とスイートライフ
「久住くんも帰れたんだ」

「まあ、PCがありゃどこでも仕事できるし」



やっぱり持ち帰ってきちゃったのね。



「定時退社日と言われたところで、その日だけ仕事が少ないわけでもないのに」

「それ言ったら俺たちなんて、朝9時に出社しなきゃいけない理由ってなんですかって毎日聞きたいぜ」



そうか、時差。

フレックス勤務が認められているとはいえ、地球の裏側と仕事をしている彼らからしたら、二時間ぽっちずらしたところで焼け石に水だろう。

優遇されているように見えても、あくまでここ数年のことで、それは会社の労働システムを変えさせるまでには至っていないのだ。

華の海外営業部にも、強いられているストレスはあるのだ。

当然か、そんなの。



「古くてでかい会社に、ルール変えろっつっても難しいのわかるけど、いつまでもこんなんじゃ人も流出するし、競争に勝てないぜ。まあそれは置いといて、メシどうする?」



並んで改札を通り、ホームへ向かう。

もとから同じ路線とはいえ、あからさまに"同じ家に帰る"雰囲気だ。


今朝も一緒に出勤してきた。

鍵も渡してあるし、てっきり別々に行くものと思っていた私は、一昨日の月曜の朝、時間をずらしもせず一緒に家を出た久住くんにびっくりした。

『お前を彼女と思って生活する』というのは、本気だったらしい。

考えてみたら、幸枝さんに対しても、あんなに必死にごまかす必要もなかったってことか。



「久住くんさ」

「ん?」

「今、彼女いるのって聞かれたら、どう答える?」

「えっ?」



ホームの中ほどの定位置を目指して歩きながら、彼が振り返った。



「…いるよって答えるよ、そりゃ」

「それ誰、って聞かれたら?」



ちょっと戸惑った顔になり、片手をスラックスのポケットに入れる。



「誰に聞かれたかにもよるけど、まあ、お前って言うと思うよ」

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