イジワル同期とスイートライフ
「過去のプレゼン資料を?」

「そうなんですよ、すぐに渡せそうなのってあります?」

「なるべく修正が少なくて済みそうなのを探してみるか。とはいえあんまり古いのじゃ意味ないもんね」



幸枝さんがうーんと唸りながら、データが入っているサーバを開く。



「ちなみに当然、日本語で書いてあるけど、いいんだよね?」



あっ、確認しなかった。

そうか、海外に渡すとなったら、翻訳が必要なのだ。



「聞いておきます」

「まあたぶん、向こうで訳して渡すんだろうね」

「英語をすらすら書いてるのを見ると、同じ会社の人と思えないですよね」

「よくそんなとこ、見る機会あったね」



ボロってこうやって出ていくんだな、とあらぬ方向を見つめて考えた。



「先日、たまたま」

「乃梨子ちゃんて、久住くんと仲いいよね」

「えっ? いやっ、普通…いや、わりと、いい…か、な?」

「どしたの」



私のあまりのうろたえぶりに、幸枝さんが目を丸くする。

嘘をつくときは、少しだけ真実の成分を入れておくとよい、を実行しようとしたのだ、けど。

思っていたより自分が器用でないことに落ち込みながら、「なんでもないです」と小さな声で答えた。





「よ、今帰り?」

「あれっ」



駅に入ろうとしたところで、久住くんが追いついてきた。

今日は月に一度設定されている、絶対の定時退社日で、委員が見回ったりするため帰らざるを得ない。

言い訳しながら居残るのも煩わしいので、もう続きは家でやろうとさっさと退社してきたところだった。

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