イジワル同期とスイートライフ
「日曜の真っ昼間に髪を濡らした男がいて、彼氏じゃないほうが不健全だよ」

「そういえばそうか」



よほど慌てているらしく、ベルトを締めながら目が泳いでいる。

まあ、私も逆の立場なら、相当焦るに違いない。

逆じゃなくても焦っているんだから。

最後の小物を隠したところで、玄関前のチャイムが鳴った。





「あらー…あららー」



舐めるような視線を浴びて、久住くんは気の毒なほど居心地悪そうにしている。

かろうじて脚は崩しているものの、気持ちだけなら正座状態だろう。

姉の正面に座りつつ、彼の前にコーヒーを、姉の前にはミルクティを置いた。

ありがとー、とにこにこしながら、小柄な姉が久住くんに向き直る。



「乃梨子の姉の、奈々子(ななこ)です」

「久住です、どうも」

「下のお名前は?」

「あ、賢児です」

「賢児くんかあ、かわいい」



かわいいか?

そんなに見ないであげて、と言いたくなるくらい久住くんを眺め回してから、姉は満足そうに私に笑いかけた。



「いいねえ、素敵な彼氏!」

「それよりいきなりどうしたの」

「旦那さんにつきあって一緒に出てきたんだけど、向こうの用事が済むまですることなくて」

「お昼は済ませた?」

「一緒に食べようと思って買ってきた」



じゃん、と姉が出した箱には、デリの色鮮やかな惣菜が山ほど詰まっていた。

四歳上の姉は、もう何年も前に嫁いで郊外で専業主婦をしている。

お相手は年上で、それはもう甘々で優しい、うらやましくなるような旦那さんだ。

ふんわり開いたスカートやレースの似合う姉は、小さい頃から家庭的で社交的で、今の生活を心から楽しんでいる。

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