人間嫌いの小説家の嘘と本当
奪われた飼い猫
「はぁ、はぁ……」
額から流れてくる汗を、手の甲で拭う。
まだ日も昇りれていない薄暗い住宅街を、規則正しい呼吸を繰り返しながら、体を慣らすために普段よりゆっくりとしたスピードで走り抜ける。
今まで、侑李のボディーガードという不馴れな仕事をしていたから、日課になっていたジョギングも疎かになっていた。
けれど昨日の夜。元カレの真幸に会ったせいか、何時もより早い時間に目が覚めてしまった私は、ベッドを抜け出し侑李の家を飛び出した。
嫌なことを忘れるには、体を動かすのが一番。
ショッピングやカラオケも良いけど、私には汗を流して体を動かすのが合っている。
そんな私には、空手はうってつけだったのだろう。
嫌なことも空手をしているときだけは、無心になって忘れることができた。
といっても根本的に解決したわけではないから、結局はその場その場で私が最善の方法を選んでいくだけ。