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「ここか。」
彼に手を引かれるようにして席までたどり着く。
初めて二人で映画を観に行ったときから
一番後ろの列を選ぶのが二人の暗黙のルールになっていた。
私も彼も館内では何も口にしないタイプで
その一致点がとても嬉しかった。
だけど、彼が手いっぱいにポップコーンを頬張るタイプだったとしても
それすら愛おしく思えてしまうんじゃないかと、今では時々考えてしまう。
「隣来ないといいなー。」
「あー。。けど混んでるし来そうだな。」
隣に他人が座ることを異常に嫌悪する私に、
彼は最初嬉しそうに笑っていた。
けれど、いつからかその笑顔が呆れ顔に変わり
今ではもう笑顔すらない。
足元からこみ上げてくる黒い不安を振り払うように彼にもたれかかる。
「楽しみだなあー。」
「そうだね。」
話しながらも、ちらちらとカバンの方に目を向けていた。
どうしてこんなにも隠し事が下手なんだろう。
そんな不器用な点さえも愛おしく思えてしまう私には、
その時点で彼を追及できる可能性など0に等しい。
三列前に仲の良さそうなカップルがお互いに少しの距離を保ちながら
席に着いたのが目に入る。
付き合いたてなのか、どちらも動きがぎこちなかった。
以前の私なら、昔の自分たちを思い出して微笑ましいなんて思っていたけれど
今はただ早く視界からいなくなって欲しいと思うだけだった。
「あ、ちょっと俺トイレ行ってくる。」
開始3分前だというのに、彼が突然立ち上がる。
「え…?もう始まるよ?」
「最初は予告とかじゃん。本編までには戻ってくるから。先方に電話しなくちゃいけないの忘れてた。」
「ふーん…。」
「いい子にして待ってて。」
ぽんぽんと頭を撫でて彼が階段を下りていく。
その後ろ姿に穴が開くんじゃないかと思うほど視線を送り続けた。
わかっているのに。
全部。
すっぽりと開いた隣の席にはまだ彼が座っていた気配が残っているのに。
彼の気持ちはずっと隣にはなくて
体温を備えた物理的な存在だけがただ呼吸をしていただけだった。
イライラした気持ちを鎮めようと、手帳を開く。
「こことここ…まだ書いてなかった。」
仕事の予定などを書き加えているうちに、照明が一段階暗くなった。
はっとして入り口付近を見渡しても、彼の姿はまだ無かった。
何かのサービスデーなのか、会場内はほとんど満席になっていた。
彼に手を引かれるようにして席までたどり着く。
初めて二人で映画を観に行ったときから
一番後ろの列を選ぶのが二人の暗黙のルールになっていた。
私も彼も館内では何も口にしないタイプで
その一致点がとても嬉しかった。
だけど、彼が手いっぱいにポップコーンを頬張るタイプだったとしても
それすら愛おしく思えてしまうんじゃないかと、今では時々考えてしまう。
「隣来ないといいなー。」
「あー。。けど混んでるし来そうだな。」
隣に他人が座ることを異常に嫌悪する私に、
彼は最初嬉しそうに笑っていた。
けれど、いつからかその笑顔が呆れ顔に変わり
今ではもう笑顔すらない。
足元からこみ上げてくる黒い不安を振り払うように彼にもたれかかる。
「楽しみだなあー。」
「そうだね。」
話しながらも、ちらちらとカバンの方に目を向けていた。
どうしてこんなにも隠し事が下手なんだろう。
そんな不器用な点さえも愛おしく思えてしまう私には、
その時点で彼を追及できる可能性など0に等しい。
三列前に仲の良さそうなカップルがお互いに少しの距離を保ちながら
席に着いたのが目に入る。
付き合いたてなのか、どちらも動きがぎこちなかった。
以前の私なら、昔の自分たちを思い出して微笑ましいなんて思っていたけれど
今はただ早く視界からいなくなって欲しいと思うだけだった。
「あ、ちょっと俺トイレ行ってくる。」
開始3分前だというのに、彼が突然立ち上がる。
「え…?もう始まるよ?」
「最初は予告とかじゃん。本編までには戻ってくるから。先方に電話しなくちゃいけないの忘れてた。」
「ふーん…。」
「いい子にして待ってて。」
ぽんぽんと頭を撫でて彼が階段を下りていく。
その後ろ姿に穴が開くんじゃないかと思うほど視線を送り続けた。
わかっているのに。
全部。
すっぽりと開いた隣の席にはまだ彼が座っていた気配が残っているのに。
彼の気持ちはずっと隣にはなくて
体温を備えた物理的な存在だけがただ呼吸をしていただけだった。
イライラした気持ちを鎮めようと、手帳を開く。
「こことここ…まだ書いてなかった。」
仕事の予定などを書き加えているうちに、照明が一段階暗くなった。
はっとして入り口付近を見渡しても、彼の姿はまだ無かった。
何かのサービスデーなのか、会場内はほとんど満席になっていた。