青に溺れる
「透子っ!」

後ろから拓海くんの声が聞こえる。
私ははっとした。

「透子ちゃん!」

七海ちゃんの声も聞こえた。
彼女が拓海くんを呼んできたのだろう。

「こないでっ!私はもう死にたいのっ!どうせ死ぬなら、いま死んだってそんな変わらないわ」

高波のせいで足をとられながらも、私は海の奥へと足を進める。
後ろからばしゃばしゃと、拓海くんが海へ入ってくる音がした。

「透子、だめだ行くな!」

「もう嫌なの!拓海くんに迷惑をかけるのが…」

「迷惑って思ったことなんて、一度もない!」

「そう言ってくれたって、考えちゃうのよ!私のせいで拓海くんの日常を奪ってしまったって…」

両親とだって、会社とだってうまくいっていた。
不安要素なんてひとつもなかった。

なのに私が居ることで、拓海くんを不幸にしてしまう。
そんな自分の存在が嫌だった。

「私はもう、癌に侵されて長くはないのよ?なんでそんな私の側に居てくれるの……?」

目の前は涙でぼやけて、拓海くんが霞んで見えなかった。

死にたくない。
そんなの当たり前だ。

でも私はもうすぐ死ぬ運命なんだ。

人間は必ずいつか死ぬ。
私はその死ぬ時期が、人より早いだけだ。

「ねえ…"お兄ちゃん"」

純白のウエディングドレスを着て結婚式をすることは、女の子の憧れだ。
私もその一人だ。

でもそれは叶わぬ夢。

私たちは血の繋がった実の兄妹。
それでなくても、私はもうながくない。

「透子を、愛してるからだよ…っ」

すぐ後ろから声が聞こえたかと思うと、私は拓海くんに腕を捕まれ抱き締められていた。

「兄妹なんて、血が繋がっているなんて関係ない…っ!俺は昔からずっと、透子だけを愛してた」
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