明日へ馳せる思い出のカケラ
第8話 望まない変化の兆し
 5位入賞。それが今回の大会で俺が残した結果だ。
 そしてもちろんながら、それは我が陸上部始まって以来の快挙でもあった。

 さらに付け加えると、今回の大会で実施されたその他の種目においても、俺以上の好成績を勝ち取った部員はいない。
 言い代えてみれば、数多くいる部員達の中で、俺は最高の結果を残してしまったんだ。

 とにかく信じられないというのが俺の本音。予期せぬアクシデントが連発したとは言え、まさかこれほどの結果を勝ち取る事になろうとは、俺自身まったく受け入れられていない。
 でも現実として決して覆せない入賞という記録が、皮肉にも俺に不吉な思いを連想させてしまうんだよね。

「参ったな。こいつはどうも、マズイ事になりそうだ……」

 君と一緒に帰り支度をしていた俺は、心の中でそう感じていた。今後の展開が、なんとなくだけど予想出来たからね。
 だから誰にも気付かれない様に、俺達は静かにこの場から立ち去ろうと努めていたんだ。

 しかしそんな俺の姑息な想いは早々に崩れ落ちてしまった。
 息を潜めて会場を後にしようとした俺と君だったけど、でもそこに一番見つかりたくなかった相手である、キャプテンの彼に立ち塞がれてしまったんだ。

「ハッハッハッ。どこに行こうというのかね」

 どっかで聞いた事のあるセリフで俺と君を呼び止めるキャプテン。
 そして案の定、彼は俺の予想通りの言葉を続けたんだ。

「まさか帰るなんて冗談は言わないよな。大会が終了したら盛大な打ち上げを企画してるんだ。そこに陸上部創設以来の快挙を成し遂げた【お前】が居なかったら話にならんだろ。
 だからお前達はこのまま俺と一緒にいてもらう。分かったな!」

 意気揚々とするキャプテンは、満弁の笑みを浮かべてそう告げた。でも明らかにその目の奥には強引で脅迫めいた圧力を感じ取る事が出来る。
 他人に対して常に及び腰な俺の性格を良く理解しての対応なんだろう。
 俺が逃げ出さない様に厳しく監視するつもりなんだ。

 クソっ。このままじゃ打ち上げのピエロにまつり上げられちまう。
 そんなの俺に耐えられるわけがない。どうにかしてこの場から逃げなくちゃ。

 俺は助け船を求める為に、君に対して目配せをした。
 けれど君の方もキャプテンの強引な態度に諦めていたんだろうね。
 君は軽く首を横に振って俺にこう答えたんだ。

「今回ばかりは参加するしかなさそうだね。結果残しちゃったんだから仕方ないよ。それに今日はみんなが祝福してくれるわけだから、その好意は受け入れないとね。人の多い場所は私も苦手だけど、一緒に居るからガンバろ」ってさ。
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