明日へ馳せる思い出のカケラ
第9話 諸刃の栄光
 季節は冬が終わろうとしていた。
 大学3年の後期も終盤に入り、もう直ぐ期末試験の日程も発表される頃合いだろう。気温の低さも相まってか、なんだか胸の内が重い気がする。
 それでも俺にとって、あの大会が終わってから今までの期間はとても充実したものだった。

 というのも、大会後に訪れた俺の誕生日やクリスマス、そしてお正月と、君と共に過ごすイベントが多かったからね。
 その度に俺は君と愛情を育み、お互いの存在意義を確かめ合ったんだ。

 掛け替えの無い存在と大切な時間を共有する。これ以上の幸せがこの世の中にあるんだろうか。これ以上に何を望めば良いのだろうか。
 君の温もりから伝わる幸福感に癒されながら、俺の心は穏やかなごんでゆく。

 それなのに何故なのだろう。
 俺の気持ちの中で、確実に変化する部分が芽生えていたんだ。

 君の事が大好きなのは変わりがないし、変わるわけがない。絶対に手放せない親愛なる君という存在。
 でも同じ時間を長く共にすることで、そんな感覚が少し麻痺してしまったのかも知れない。
 その兆しとして、俺は君を放って出掛ける機会が確実に増えていったんだ。


 その理由はあの大会後の打ち上げにある。
 あの日、俺はそれまで疎遠だった陸上部のメンバーと腹を割って話す事が出来た。
 それが大きな契機になったんだろう。俺は時折そんな【新しい仲間達】に声を掛けられ、遊びに出掛けるようになっていたんだ。

 不思議だよね。あれほどにまで毛嫌いされていた俺なのに、今ではそんな仲間達と冗談を言い合ったり、悪ふざけをする間柄にまでなっている。
 恐らくあの大会で結果を残した事が、何よりも彼らに衝撃を与えたんだろう。

 それに影口を吐き捨てながらも、彼らは俺が暑い夏に過酷な練習を積み上げていた事を目の当たりにしていたんだ。
 そしてその頑張り抜いた姿に彼らは内心で驚いていたんだよ。感銘を受けるほどにね。

 それだけでも彼らが俺を見直すには十分だったかも知れない。
 でも打ち上げ会場で改めて俺と遠慮の無い話しをすることで、彼らは俺という存在を受け入れてくれたんだ。

 初めのうちは気恥ずかしさもあってか、なかなか上手く仲間に解け込む事が出来なかった。今まで人とツルんで行動することなんて、ほとんど無かった俺だからね。無理もない事さ。
 でもそんな俺の性格を仲間達は機敏にも察し、強引と呼べるくらいの温かさで迎え入れてくれたんだ。
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