明日へ馳せる思い出のカケラ
「なぁ。不躾になんだけどさ、俺達の間には何もなかった。それで良いんだよな。俺はあいつとこれからも一緒に居続けたい。だからそれを応援してくれるよな。もう俺達を放っておいてくれるよな」

 俺は願うように彼女へ問い掛けた。

 俺は君と一緒に未来を歩み続けたいだけなんだ。
 だからもう彼女には会いたくない。たとえそれが彼女を傷付ける事になろうとも、俺には君との関係を優先する選択肢しか持ち合わせていないんだ。

 だからもう、俺の胸に残るシコリを取り除いてくれないか。
 もう俺の前に姿を現さないでくれないか。
 俺は心の底からそう切実に願ったんだ。

 でもそんな俺に彼女はこう囁いた。

「意地悪なのはあなたの方なのよ。私だって、あなたの事は諦めたつもり。でも、だったら優しくなんかしないでよ。――忘れられなくなるじゃない」

 やっと聞こえるくらいの声で呟いた彼女の言葉に俺は体を硬直させた。
 胸が押し潰されるほどの激しい圧力を彼女から感じたんだ。

 でもそれを押し退けなければ俺はダメになる。
 彼女にとっては気の毒なのは確かだし、俺を冷たい男だと憎むかも知れない。

 だけど俺には君が必要なんだ。
 君だけが俺の全てなんだ。

 その君と一緒の未来を手に入れる為なら、俺は彼女にどれだけ憎まれたって構わない。
 だから最後に一言だけ念を押すんだ。

「もう俺には二度と会わないでくれ。俺の前に現れないでくれ。俺が好きになれるのは【あいつ】だけなんだから」って。

 彼女を再び目の前にした今、俺は君の大切さを改めて思い知った。
 なぜこのタイミングでそれを心の底から強く感じたのかは分からない。
 ただ一つ言えるとするならば、それは俺が君のことを本当に心から愛しく想っているって事なんだよね。

 そしてその想いはどんどんと強まっていくばかりなんだ。

 皮肉にも少しお互いに距離を置いてしまった今の状況だからこそ、君の大切さに気付いたのかも知れない。
 でもだからこそ、今なら君に向かってはっきりと言えるだろう。

 君を傷付けてゴメンと。
 君を信じていると。
 君のことが大好きだと。

 だからその前に、彼女に向かって断言する必要があるんだよ。
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