明日へ馳せる思い出のカケラ
第15話 イブの夜の罰
 どうやら発達した低気圧が日本海側をゆっくりとしたスピードで通過するらしい。
 その影響で東京の天気がどこまで悪化するのかは分からないけど、でも明日の夜までは注意が必要だと言う事だ。

 コンビニに着くと人当りの良い店長が俺にそう語り掛けて来きた。
 そんな店長に対して俺は愛想笑いだけを浮かべて無言のままレジへと入る。
 すると今度はそれまでレジに入っていた高校生バイトの男子学生が、俺に冗談を告げる様にして口走ったんだ。

「今日は金曜でクリスマスイブ。世の中のカップルどもはイチャつきまくってるんだろうなぁ。
 あんな事やこんな事。う~ん、溜まんねぇ~。それに比べたらオレなんてまだチェリーでしょ。悔しくて仕方ないっスよ、ホント。
 だからね、オレ思うんスよ。オレ達みたいな寂しい男にとっちゃ、むしろ天気がメチャ荒れてくれたほうが気分が良いなってね。先輩はそう思わないっスか?」

 レジを交代した学生の彼は、バイトを切り上げる準備をしながら俺にそう呟やいた。

 口を尖らせる彼の姿は思春期の男子の姿をそのまま映し出したかの様で、ある意味微笑ましい。
 ただ俺はそんな彼に向かって気の利いた返しの一つもしてあげられなかった。

 だって彼の告げたストレートな心情が、俺のその時の気分とまったく重なっていたから。

「天気が崩れるのは本当なんだから、そんなつまらない事言ってないで早く家に帰ってゲームでもやってろ」

 俺はそう当たり障りのない言葉のみを彼に告げ、そのままバックヤードに向かう。
 店長の言いつけで、商品のおでんを補充する為に在庫を取りに向かったんだ。
 でもその時の俺の頭の中は、先程彼が告げた言葉で溢れ返っていたんだよね。

 違いない。クリスマスなんて滅茶苦茶になってしまえばいいんだ。
 俺は卑屈にもそう世間を呪う。

 低気圧の接近どころか、大型の隕石でも墜落してくれればいいんだ。
 そして世界を滅亡させてくれれば、どれほど愉快で心地良いだろうか。

 俺は一人薄ら笑いを浮かべながらそんな思いを巡らせていたんだ。
 学生の彼が告げた冗談交じりの浅い感情とは異なり、本心から社会全体を逆恨みする暗然とした気持ちでね。
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