明日へ馳せる思い出のカケラ
 それでも少しだけ気分が楽になったのを感じた。
 こんな感覚はすごく久しぶりな気がする。
 でも何が理由でそんな感覚を抱いたのであろうか。

 人との関わりを極力拒絶したいがために始めたコンビニでの夜間バイト。
 だけどそれは俺が当初予想していたよりも、遥かに人と触れ合う機会が多い仕事だったんだよね。

 来店する客への対応もそうだけど、店長を含めた他のスタッフ達との接触は避けられない。
 それに夜の間はコンビニに商品を納品する色々な業者ともやり取りしなければならないんだ。
 だから最初の頃はそれらがすごく面倒に思えて仕方なかったんだよね。

 どうして俺はサービス業を選んでしまったのだろうか。
 それを今更ながらに痛感せざるを得ない。

 冷静に考えるまでもなく、接客業は人と関わってナンボの仕事なんだよね。

 本気で人との関わりを避けたいのであれば、むしろ工場での夜勤バイトでもしていたほうが俺の希望に近かったのかも知れないんだ。
 それなのに俺はただ、夜ならば人に会う機会が少ないだろうなんて欠乏した考えだけで仕事先を選んだんだ。

 でもそんな仕事を俺は嫌々ながらも続けていた。
 いや、単純に辞められなかったんだ。

「また逃げ出すのか」

 なんて、陰口を叩かれることを恐れていたから。

 就職先はあれほど簡単に辞めてしまったっていうのに、どうしてこんなどうでもよいバイトは続けているのだろうか。
 まるで陸上部に身を費やしていた【あの頃】の様に。

 仕事ぶりだけは真面目だった。
 そう、練習だけは愚直に熟していたあの頃とまったく同じにね。

 そしてそんな俺に温厚な店長は余計な信頼を寄せてしまったんだよ。
 その為に俺は無駄とも呼べる人との関わりを断ち切る事が出来なかったんだ。
 多少なりとも責任のある仕事を任されたりもしていたからね。

 ただ俺はそんな時に決まってこう思ったんだ。
 もしかしたら俺の時間は止まったのではなくて、むしろ逆行しているんじゃないのかって。

 だって生活環境はまるで異なるけど、でも俺の精神的な感情は君と出会う前の状態に戻っている様に感じられていたのだから。
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