明日へ馳せる思い出のカケラ
 君との関係をやり直したいと願う気持ちが、無意識に俺を君と出会う前の感覚に戻してしまったのかも知れない。
 いや、もっと広い意味で俺はもしかしたら他者との関わりを欲していたのかも知れない。

 もう孤独はうんざりだ。
 そう救いを切望する俺の心の叫びが、こんなサービス業という職種を選んでしまった。そう思えてならなかったんだよ。

 そして環境にも恵まれたんだろうね。
 人の良い店長や気さくな学生に囲まれ、俺は計らずも心のリハビリを受けていたのかも知れないんだ。
 気がつけば俺は人と接触する事に少し慣れていたんだよ。

 まだまだ素っ気なくはあったろうけど、でも時折冗談じみた言葉の掛け合いくらいは出来る様になっていたからね。
 それに店に訪れる様々な客達を垣間見る事で、余計に他人に対する抵抗を薄めていったんだろう。

 特に夜間コンビニを訪れる客層はバラエティに富んでいるからね。
 酒に酔ったホームレスや同伴出勤するキャバ嬢と連れの男。
 絶対に家出してきただろうっていう中学生くらいの女の子だってたまに来るモンだ。

 そして夜が更けた時間にもなれば、腐った社会の縮図が目の前で展開されてゆく。

 石鹸の甘い香りを漂わせる中年のオッサン。
 体を売って尽くす女。
 そんな女を手玉にするホストの男。
 溜まった鬱憤の発散方法を見失いたむろする若者達。

 そんな者達の姿を目の当たりにし、また少なからず言葉を交わす事で俺の荒廃した胸の内が少しずつだけど中和していったんだよ。

 俺はまだ底辺じゃない。
 俺なんかよりもっと暗い世界で生き続けている人達がいる。
 そう思えたから。

 世の中を逆恨みする気持ちは、まだ俺の中で燻ぶり続けている。
 それでも俺は良い意味で社会を鼻にかける余裕を持てるまでになっていたんだ。
 だからえげつなくも世間を愚弄する学生の彼の発言に自身の思いを重ね合わせ、それをガス抜きとして俺の淀んだ心を軽く感じさせたんだよ。

 無垢な男子学生の、まだ穢れのない感覚を拠り所にしてね。
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