これも恋と呼んでいいのか
「本当に有り難うございます!!」
数日後の、秋晴れの日。
連絡をもらい本を買いに来た靖美。
感激のあまり目を潤ませ、高揚した表情で、両手で手を握られ、赤くなる琉ヶ嵜。
若い女性の、温かく柔らかい手だった。
棚の影から、にやにやするゆきに見られ、慌てて離すと、
「よ、喜んでもらえて、よかったです」
「お幾らですか?」
「いや、えっと」
定価は千五百円と書いてある。
恐らく当時でもそれなりに高かったのは確かだが。あの親父め…と恨みつつ。
一応、店として取り寄せた形になっている以上、金も取らねばなるまい。
「せ、千五百円で」
「有り難うございました!!これでやっと彼に返せます!!」
「かれ……」
思わず顔を背けるゆき。
笑いを堪えるのに、必死だ。
「彼氏の実家のお手伝いで、お宅にお邪魔したときに、間違って捨ててしまったみたいで。本当に助かりました!!」
ピキッ、と何かがひび割れ、崩れた琉ヶ嵜。
「そう、そうですか。よかった…」
靖美が帰ったあと、
「俺の五万…五万…」
肩を落とす琉ヶ嵜。
もちろんそれで何がどうなるというわけでも、何かに期待したわけでもなかったが。
かつて女性にプレゼントのひとつもしたことのなかった琉ヶ嵜には、大きな傷となってしまった。