君に会えたら伝えたい事がある。
「愛するものを失った悲しみを癒すことはできない」ノルウェイの森
荷造りをしている最中に僕は小さなダンボールの箱をクローゼットの中から見つけた。
ダンボールには付箋が貼ってあって、そこには可愛らしい文字で
「売らないで、捨てないで、いつか取りに来るから。それと、私のこと忘れないでね」と書いてあった。
その付箋は僕によって何度もセロテープで補強してあり絶対にダンボールから剥がれない様になっている。
彼女はいったいいつこの箱を取りにくるのだろうか。。。
僕はその箱を見ながらふと5年前のこと思い出した。

僕の好きだった彼女は少し変わった女の子だった。
そもそも僕は彼女に出会う前までに日本人というものを見たことがなかったので、日本人が変わっているのかそれとも彼女が少し変わっていたのかよく分から無かったし、いまだに答えはみつからない。

僕は自分の国を離れてヨーロッパのとある全寮制の大学で勉強していた。
僕の大学はものすごく小さく全校生徒は400人ほどだった。
学科も僕のいる調理科と彼女のいた国際ビジネス科しかなかった。3年制のインターナショナルスクールで生徒はヨーロッパ、アジア、南米、中東、アフリカと世界中から集まっていた。だけれども結局、アジア人はアジア人とつるみ、スペイン語圏はスペイン語同士、ロシア語圏にいたっては完全にロシア語圏の人々だけといった感じだった。

不思議なことに僕らは同じ大学の同じ寮に住んでいたにもかかわらず初めて僕が彼女と話したのは入学して3年目の夏だった。
僕らの学校は夏に始まるので3年生になった新学期、僕は初めて彼女に存在を認識された。
もっぱら彼女は学校内で有名だったから僕は彼女の存在は知っていたけれど、どうも話しかけるタイミングが掴めずにいた。

彼女が学校内で有名な理由は2つあった。
一つは学校の5割を占めるだろうアジア人の中で日本人がたったの3人しかいなくて、その中でも彼女は学校唯一の日本人の女の子だったからだ。
もう一つの理由は彼女の容姿だ。彼女はかわいいと噂の女の子だった。
美人かと聞かれるとそうではないしマドンナ的存在では無いが彼女の容姿は十分に魅力的でラテン系のセクシーな他の生徒やブロンドの女の子達とはまた違った魅力があった。
特に彼女の独特な形の目と口が僕は好きだった。
彼女の目は東アジア人独特の小さな目で、でもだからと言って彼女の目が細かったかと聞かれると違うし、蒙古襞はあるけど、二重でアーモンドの様な形の中に焦げ茶色の大きな瞳がとても可愛らしかった。
口も小さく、いつも口角が上がっていてそして彼女の唇も少し上むきに上品に上がっていた。
本人はアヒルみたいだとからかわれたことが多いから好きではないと言っていたけれども僕はそう思はなかった。
彼女の焦げ茶色のまっすぐな髪の毛もとても繊細に見えた。それらのポイントが僕を含めた多くの生徒を魅了していた。
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