翼をなくした天使達



「おい、なにやってんだよ」

聞き慣れた声。その高い背丈と大きな背中を見てすぐに蒼井だと分かった。

「いやいや俺ら何にもしてねーし。なぁ?」
「そうそうこの女が勝手に絡んできたんだよ」

………絡んでないし。蒼井が何か言いたそうに私の方を見てきたからありのままをその場で話した。

「だってその財布……クラスの女子のものだし手にスプレーが付いてるから絶対……」

私が言い終わる前に蒼井は深いため息をついてそのまま手を引っ張られた。

「いいから来い」
「え、でもまだ……」

ギロリと睨まれた私は言い足りないのに何も言えなくなってしまった。

なんで蒼井は何も男達に言わないの?だってこいつらのせいで犯人扱いされてんじゃん。

それに今だってニヤニヤしてるし絶対この人達が犯人だよ。

すると背後で男達の声がした。

「おせーよ。保坂」

振り返るとそこには不良達の仲間なのか後からひとりの男が現れた。その姿は黒髪で短髪に眼鏡。
どう見ても仲間には見えないけど……

保坂と呼ばれた男はすぐに蒼井に気付いてわざとらしく声をかけた。

「あれ、蒼井くんじゃん。久しぶり」
「………」

知り合いなのか顔見知りなのか知らないけど、
蒼井の顔はどこか強張っている。

「元気?再会の記念にタバコでも買ってあげようか?あ、でも制服じゃまずいよね」

保坂は顔に似合わずくわえタバコをしてその煙を空に吐いた。

蒼井はそのあとも何も言わず相変わらず急ぎ足。

「おーい、蒼井くーん。分かってると思うけど余計な事しないでね?でも蒼井くんには立派なお父様が付いてるからなんでも揉み消してくれるもんね?恵まれてるよね~本当に」

蒼井はそんな煽りにも耳を傾けず私の手を引いたままその場を離れた。


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