翼をなくした天使達




「行こう?昨日の事は誰にも言わないから」

美保がいつもの顔に戻って私の手を引く。その手が冷たく感じたのは私の追いつかない気持ちがそう捉えたんだろう。

これでいいの?

私の中途半端な正義がまた邪魔をする。

っと、その時耳の奥でキーンと金属音が聞こえてどこからか声がした。


─────ねぇ、市川もあかりの事うざいよね?
普通にキモいよね?だったらちゃんと言わないと、ね?

またあの声。これで何度目?

『うざい、キモい』

『はは、ウケる!だよねだよね』

なんで?どうして?

なんで?なんで?なんで?

ねぇ、私は……………


声はすぐに消えた。いつも奇妙な声や映像はほんの一瞬で、私はすぐに我に返る。

リアルなのかそうじゃないのか記憶が乱れて頭が痛い。

いつも曖昧で勝手に流れてくる声。だけど今までと違ったのははっきりと人名が聞こえた事。

………市川。確かにそう言ってた。

私の知っている名字が市川なのは美保しかいない。

美保?あれは美保なの?

映像の中で見えた美保の姿は黒髪でYシャツのボタンを一番上まで留めててスカートは膝丈。

そうじゃないといいなって思ってたけど……
美保も変わった人のひとりなの?

分からない。頭の整理が追い付かない。

だけど聞こえてくるのは嫌な言葉ばかり。冷や汗が流れてきて体から血の気が引いていく感覚。

思い出すたびに胸が押し潰される。


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